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振り返ったカカシ

作者: 栖 周


   プロローグ


夕闇が迫る雑踏の中、生き急ぐ人々が時間に追われている。昼よりもなお眩しいヘッドランプが冷たい影を落とした。腕時計を見ながら走り抜けるスーツの男。携帯電話を見ながら並んで歩く少女達。

 ――と。

 ビル街には余りにも似つかわしくない少年の姿がショーウィンドウに映る。少年は和服を身にまとい、器用に人と人の間をすりぬけていった。すばしっこくてネコのようだ。辺りをキョロキョロ見回しながら、それでも足取りはしっかりしている。

 興味を持ったアタシは思わず声をかけそうになったが……。少年はチリン、チリンと腕につけた鈴を鳴らしながら――人波に消えていった。

 文字通り、風景に溶け込むように。

     ※

 チリ〜ン

 チリ〜ン

 鈴の音が夕焼けに転がる。山のネグラヘ向かうカラスが音に振り返った。

 ア〜

 ア〜

 鈴の音と調和を奏でる。気持ち良い音だなぁ、とのんきな事を考えながら和服の少年は歩いていた。

 年の頃は十代前半、ボサボサの癖っ毛に左頬の傷が見え隠れしている。どこか目は空ろで腕には鈴。ぶつぶつと空虚な事を呟きながら田圃の畦道をフラフラしていた。

「よぉどうした小僧」

 不意に投げかけられた質問に、少年の目に光が戻ってきた。慌てた様子で顔を上げると……目の前にはカラスのとまったカカシ。

 ――どっちが話しかけた?

 さも、どっちが話しかけても変ではない――そんな錯覚に陥る。

 待て待て待て。カラスとカカシじゃないか。他に誰か人が……。

 改めて辺りを見直す少年に、再び注意が飛ぶ。

「フラフラしてんじゃねぇぞぅ」

 カラスが飛び立つ。

 カカシ?!

 カカシだ!

 カカシが……喋った!

 更に、カカシの首が少年の方へ動いていく。

ギギギギギギギギギ……

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 カカシに背を向け、少年は一目散に走り出す。

 チリ〜ン

 チリ〜ン

 鈴の音がやけに強く少年の耳に残った。


 チリ〜ン

 チリ〜ン

 鈴の括りつけられた左手をぶんぶん振って、少年は田圃の畦道を走る。

「何だ、あれ? 何!」

 後ろに遠ざかっていくカカシに視線を送りながら、必死で足を前に出す。

(カカシ……カカシがしゃべっ……)

 そこまで考えた時、ずん、と頭が重くなった。

「痛っ!」

 思わず頭を抱えると、ぬるり、と左手に嫌な感触が伝わってくる。見ると、うっすらと血がついていた。

――チリ〜ン

 鈴の音にハッと我に返る。

 ここは何処だ?

 僕は……誰だろう?

 逃げてきた道を振り返ってみても見覚えが無い。――どころか、自分自身のことも。頭が真っ白。色んなものが頭からぽっかり消えてしまったような感覚。

 それは決して不快なものではなく、むしろ心が軽い感覚だったが……不安は募る。

 その時。所在無い少年の、心の静寂。その静寂を破る甲高い悲鳴が――。

「ふにゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 チリ〜ン

 チリ〜ン

 ご。ずるっべたっばったん!

「……ぁぁぁぁぁぁぐふっ!」

「うわっ」

 後ろから突っ込んできた何かに、少年もつんのめる。草の上に転がり、ぶつかってきたモノの正体をさぐった。

「な、何……?」

「あいたたたた」

 うずくまっているのは少年より少し年上に見える女性。少年よりも癖っ毛で、ふわふわした髪が草まみれだ。

「もぅ、カカシの次は何よ!」

 モコモコしたタートルネックのセーターからススキの穂を生やして悪態をつく。

「ん?」

 少年に気付いた少女が細い目を歪ませる。「……あの」

 大丈夫ですか、という質問が言葉になる前に悪態が飛んだ。

「ボケッとしてんじゃないの! 手ぇ貸しなさいよ! ほら! 今すぐ!」

「っは、はい!」

 哀れな少年、操り人形の如く言いなりだ。少女から差し出された手に少年が自分の手を伸ばした、その時。

 チリ〜ン

 二人の手に、それぞれ鈴がついていることが見て取れた。

「その鈴……」

 少女が勢い込んで立ち上がる。なんだ、怪我はなさそうだ――と、またも少年はのん気に構えていた。頭一つ分、背の高い少女が少年の腕を取る。

「あんたも? あんたもなの?!」

 戸惑う少年をよそに、少女は続けた。

「私の事、知らない?!」

 少女の叫び声に、少年の胸の奥で何かが微かに反応する。形にならなくてもどかしい――そして懐かしい何か。

(この感じ、どこかで……)

 チリ〜ン

 その思いは形を結ばず、鈴の音と共に霧散した。

     ※

「――で、結局あんたも何も覚えてない、と」

 少年は少女と、二人で畦道に腰を下ろしている。ススキの穂が頬を撫でてくすぐったい。

「……うん」

 すかさず少女が少年のほっぺたを、両方からゆっくり抓む。

「“うん”じゃなくて、“はい”」

 「ひゃい」と間抜けな返事が少年の口から洩れた。

「でも……誰かを探していた……そんな気がする……します」

 語尾に気をつけながら、少年は目を閉じる。微かに、手を振っている誰かが呼んでいる姿が浮かび上がった。ざわ、と草が一斉に揺れた。風が二人の頬を撫で空へと舞い上がって行く。

「そう」

 チリ〜ン

 何かを言いかけた少女だったが、鈴の音に気を取られた隙に、言いかけた言葉を見失った。

「えぇと……何の話だったっけ」

 ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜

 少女の問いかけに、少年の腹の虫が答えた。

「ふぅ、まずは腹ごしらえ?」

 呆れ顔で少年を見下ろす。

「えへへへ」

「まぁ、ここにいてもしょうがないか。さ、行くよ」

 それが当然であるかのように少女が手を差し伸べる。

「え? あ、はい」

 腰を上げた少年の腕の鈴がまた音を紡いだ。 チリ〜ン

    ※

「……もぅ、どうなってんの……?」

 少女の目が、疲労からうっすら充血して見える。額には汗が粒になってキラキラと浮かぶ。少年も同様に汗だくになっていた。足元もフラフラと覚束ない。

目の前には、先刻のカカシが腕を広げている。こうして目の前にするのは――既に九回を数えるだろうか? その度に「気ぃつけろぉ」だの「又来たんかぁ」だのと声をかけてきた。

少年は――悪いヤツでもないかも? と内心、カカシに対する恐怖感は消えたものの、やはり喋りかけられるのは抵抗がある。少女にいたってはカカシを目にする事さえ忌み嫌っている様子だ。

決してカカシが道を塞いでいる訳でもないし、常にカカシに背を向け一本道を歩き続けるのだが……たどり着くのはいつもカカシの前。延々と歩き続けているのにも拘らず、だ。

ひょっとして、気付かないくらいほんのちょっと道が曲がっているのかな、と思って辺りを見渡すのだが、少年達のいる道は少なくとも遥か向こうの山裾の森まで真っ直ぐに伸びている。もしも道が円を描いているとするなら、既に九回、山越しをした事になる。

しかし。二人が歩いた道は平坦な道。見晴らしも良かっただけに、尚更腑に落ちない。

「あんた、何物? ……ひょっとして中に誰かいるの?」

 痺れを切らした少女がカカシに問う。

「アタシは――黒猫だぁ」


 黒猫と名乗ったカカシはゆっくり首を正面に向けた。ついつい少年と少女もカカシの正面へと回ってしまう。どうやらその場から動けないらしい。害意が無さそうなのを察してカカシの目を見上げ、少女が恐る恐る話しかける。

「オッケィ、わかった黒猫ね。――あんた何者? ここはどこ? 私たちの事、知ってる?」

 少年も少女の影から様子をうかがう。

「アタシは黒猫。それ以上でも以下でもないさね。ここは“世間せげん”。時の狭間の忘られの里。あんた達の事は忘れたね」

 ゆったりとした口調で一息に黒猫が告げる。二人には何がなんだかさっぱりだ。からかう様な内容に少女の目が釣り上がる。

「は? せげん? 忘れたってどういう事……? ねぇ、本当は知ってるんでしょ!」

 冷たい風が田の稲穂を揺らし、二人の足元を駆け抜ける。藁傘に布で作られた頭、藁の胴体しかないカカシから数本、藁が飛んでいった。

「……じきに分かるさ今に来るから――ほぅら、足音がしないかぃ?」

 ざざざざざざ……

風よりも濃い音が田の中から聞こえる。

「次は何よ?」

 目を泳がせながら少女が呟く。

そして。

音が止む。

金色の風の中、姿を現したのは――二本の角を生やした鬼だった。


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁ〜〜!」

 少女が思わず駆け出し、膝から崩れるように転んだ。そっと少女の裾を掴んでいた少年も、つられてすっ転ぶ。

「……何よ! 来ないでっ!」

 少女の狼狽振りに、かえって少年は落ち着きを取り戻した。よく見ると、鬼と思われた人物は面をかぶっている。不自然なほど真っ白な顔と、微かに覗く耳との境に紐と通し穴が見える。白い被り物をして、白装束に身を包み、その体格から大人の女性だと気付いた。

「あの……あなたは?」

 小さく、だがはっきりと少年が言葉にする。しかし、鬼面の女性からの返事を待つことなく、少女が少年を促して立ち上がった。

「馬っ鹿、早く逃げよっ!」

 未だ涙で潤む眼を隠すことなく、少女が力強く少年の腕を取った。一歩、二歩と走り出す。

だが――先ほどまでと同様、走っても走っても黒猫と鬼面がいる場所にたどり着いてしまう。

「くすくすくすぅ」

 わざとらしいほどハッキリと鬼面の女性が哄笑する。カカシと並び、特に少女の方へ顔を向けていた。

「……何よ!」

 混乱しそうな頭を抱え、少女が鬼面を睨みつける。

「私の名は白比丘尼。ようこそ」

 おどけた様子で腰を曲げる。カカシと同じく、こちらに敵意を向けていないことを感じると、少年は安堵した。少女の方は先ほど笑われた事を根に持っているらしく、まだ緊張を解いていない。

「あの、名乗りたいのですが、名前が分からないのです」

 おずおずと少年が話しかける。さっきは少女がカカシに話しかけたのだから、次は自分が、と勇気を振り絞った。

 すると、答えるように白比丘尼が頷いた。

「当然ですよ。ここは今でもなく過去でもなく未来でもない。何処でもないここで、これまでの貴方は貴方でなくなる」

 相変わらず言葉の意味を掴みかね、二人は顔を見合わせた。

「わっかりにくいわね! ここどこよ! 早くうちに――」

 そこまでがなったところで、少女は言葉に詰まった。

「うちって……どこだっけ?」

 まるで手のひらから記憶の波が零れ落ちていく、いや、或いは初めから「そんなもの」は無かったのではないか――ここに来てカカシを見て、少年と出会って。それ以前なんてものが本当に存在したのか。少女は強い不安に押し包まれた。

「何がわからないのかすら判らない」という状態の中、知らず少女の頬を涙が伝っている。大切な何かを置き去りにしてきた様な焦燥感だけが、ぎゅう、と胸を締め付けた。

白比丘尼が続ける。

「帰りたいなら方法は一つ。名前を思いだせば良い。思い出せなければ名を与える。与えられたものは“世間の住人”としてここで存在し続ける。もし嫌ならば――」

 ――鈴を外すが良い――

ぴん、と空気が張り詰め、濃度を増した。二人は呼吸さえ苦しく感じる。生暖かい水に浸かっているような心地よさと不快感。相反する感覚に益々少女の涙が流れ続ける。


「おや」

 不意に白比丘尼が声をあげた。

「やれ珍しい」

「ほぅ、今度は――お坊さんかね?」

 黒猫ものんびりした声を上げる。

「あ、あそこ!」

 少女が少年に、数メートル離れた場所を指差した。見ると、鈴が一つ、中に浮いている。りん、と小さく鳴った。

見る間に鈴が大きくなり、ぺっ、と大柄な男性を吐き出す。地面に落ちた男性は、確かに僧侶の様な身なりだ。「うぅ」と呻きながら立ち上がり、空ろな視線のまま歩き出しかけた。気が付けば、左腕に鈴がぶら下がっている。

「あの……」

 少年が声をかけると、僧がハッとしたように顔を上げた。カカシよりも高いその身の丈は六尺をゆうに越える。少年が二人、縦に並んだら漸く同じ位であろうか。

まだ意識がハッキリしない様子の僧の目が、少年の視線とぶつかった。

「……ここは……私は……?」

 カカシと鬼面に目が行ったところで、僧の意識が鮮明になる。

「おのれ物の怪!」

 言いさすや、何かを探るように手を振り回している。少年には刀か何かを掴もうとしている様に見えた。

「……あぁ、そうか。刀は殿に……」

 僧侶が呟いた途端、鈴がりん、と音を出した。

「殿! 殿は何処に! 面妖な……確かに館に火を……」

 大声を上げる僧に、最早周りは見えていないようだ。つい、と一歩前に出た白比丘尼が語りかける。

「――貴方のお名前は?」

 一拍間をおき、僧が答える。

「――我が名は武蔵坊弁慶! おのれ頼朝! 殿のお命は……」

 話の途中で僧の腕に括られていた鈴が再び大きくなり、僧の身体を飲み込んだ。一瞬にして僧は姿を消し、鈴も同じように消えた。


「……何だったの?」

 漸く泣き止んだ少女が目を丸くしていた。少年も開いた口が塞がらない。

「なんとも……素早いご帰還だこと」

 再びくすくす、と白比丘尼が笑みを零す。視線を二人に戻すと、

「さぁ、今の要領です。思い――出せますか?」

 少年は先ほどの僧を思い返してみた。武蔵坊? 記憶を揺さぶる。弁慶、と確かにそう名乗っていた。その名を手がかりに、細い糸を手繰るように記憶を引き出そうとする。確か――うん、そうだ、小学校で唄った覚えがある、牛若丸と――そこまで思い出して、少年は一人の少女の顔を思い出した。

一緒に小学校の帰り道を並んで歩いていた。山の中の極当たり前の帰り道。ふと、足元をかすめる影。『あ、クロ』少女が呼ぶ声が少年の耳に残る。どうやら真っ黒な猫のようだ。少女が猫を追いかけて姿を消す。日も暮れる頃、少女が少年を訪ねてやってきた。『私のクロ、知らない?』泣きそうな顔で少女は少年を見つめ、少年の名を、呼んだ――。


急に黙り込んだ少年をヨソに、少女も必死で自分を取り戻そうと頭を捻った。――武蔵坊弁慶……どこかで耳にしたっけ……T?? 映画? あ、ドラマだ! 四月からお父さんが見てたんだっけ――中村何とかって歌舞伎俳優さんが……そうそう、加トちゃんも出てた! そこだけお父さんと――記憶が遡り始めた。

幼い弟と一緒になってお笑い番組をよく見ていた。七つはなれた弟は、生意気ではあったが可愛いものだ。喧嘩もしたが、姉である少女の後をいつも付いて回る。

「……祐輔」

 弟の名をポツリ呟く。

「そう、祐輔、祐輔よ!」

 我知らず飛び跳ねる少女がハタと止まる。

「……で、私は……何だっけ?」

 祐輔と言う名は思い出せた。では苗字の方は――? 記憶を辿る。

「あ。大国だ。そうそう! 大国! 思い出した!」


 そこで少年と少女は互いに見詰め合う。

「私! 大国だいこく比呂乃ひろのっ!」

「あ、ぼ、僕、郭彦かくひこ……真如堂郭彦です!」

 二人が叫んだ瞬間。左手に括られていた鈴が大きくなった。

「さようならのぅ」

「思い――出せたのね」

 黒猫と白比丘尼の声が鈴の音にかき消されていった。

    ※

「比呂ネェ?」

 覗きこんでくる顔に驚き、比呂乃は飛び起きた。弟の祐輔が、心配そうな顔をしている。

「あれ……私?」

 何してたんだっけ、と辺りを見回す。近所の裏山だ。誰かに会った気もするが思い出せない。

「良かったぁ、急に倒れるんだもん!」

 祐輔が今にも泣きそうな目を向ける。

「……あ〜っと……うん、そうだ! クラック探しに来たんだっけ」

 飼い猫のクラックが山に行ったきり帰ってこない――確か祐輔にそう泣きつかれたのだ。

「うにゃぁ」

 座り込んだままの比呂乃の足に柔らかい感触がある。黒い姿のその猫は、間違いなくクラック。赤い首のリボンもそのままだ。

「お、よしよし。ちゃんと出てきたんだね」

 手を伸ばし撫でてやる。よく見ると、見慣れない白い花が足元にあった。

「クラックがね、お口にくわえてきたんだぁ」

 祐輔が笑う。

「探しに来た御礼のつもりかなぁ、ありがとね」

 比呂乃もニッコリ笑い――。

「ボケッとしてんじゃないの! 手ぇ貸しなさいよ! ほら!」

 気を失った恥ずかしさを隠すように声を上げた。


  エピローグ

「確かに私の祖父は“郭彦”だけど……あったこの写真だ」

 比呂乃は「相楽坊」という寺の本堂にいた。先日ビルの谷間に消えた少年。彼を見た瞬間、「真如堂郭彦」と言う名が頭に浮かび、なかなか消えてくれなかった。二十五歳にもなって何を……そう思いつつ気になって仕方がない。

真如堂――どこかで聞いたことがあるな、と考えていると、弟の友人である事が判った。弟の二つ年上と言うから、今年二十歳のはずだ。

今比呂乃が前にしているのは、弟の友人の父親である。名は隆臣。四十代前半だそうで、現在の住職である。

どうしても気になった比呂乃がアポをとり、押しかけて「郭彦」と言う名を告げてみたのだ。困った顔をしていた住職だったが、それなら、と古いアルバムを持ってきてくれた。

「あ……確かにこの子でした!」

 思わず声を上げる。和服姿で左の頬に傷らしきものがある。手には黒猫を抱き上げていた。

「本当に……? 不思議な事もあるもんだねぇ。この時の話は聞いているよ。何でも友人のお峰――実は私の祖母なんだが――が飼っていた猫が迷子になったらしくてね。幼馴染だった祖父が一緒に探しに行ったらしいんだ。そしたら祖父まで迷子になって。見つかったのは三日後。頬っぺたに傷が出来てたらしい。猫にやられたんだね」

 苦笑しながら話す隆臣。比呂乃は不意に、懐かしい何かを感じた。

ちり〜ん

鈴の音に、思わず振り返る。一瞬、風が頬を撫で。カカシが見えた気がして――やっぱり気のせいさ、と思い直した。

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