婚約を拒否された令嬢があたしのせいだと怒鳴り込んできたけど知らんがな、かく言うあたしはパンの令嬢です
あたしはパン屋『オソノベーカリー』の看板娘だ。
なんたって看板にオソノってあたしの名前が書いてあるくらいだから。
看板娘ってそーゆー意味じゃない?
ま、父ちゃんが愛する娘の名前を店の名に使ってるだけだ。
ただあたしは世にも稀な可愛さだから、店が繁盛しているとゆーことはある。
誰だ、勢いで買わせてるんだろって言ってるやつは。
間違いじゃないね。
だって焼きたてパンのいい香りには誰も勝てないんだから。
「いらっしゃーい!」
と笑顔で挨拶。
最近常連になった貴族の令息らしき人だ。
いいお召しだし、従者がついているしな?
年齢はあたしと同じ一二、三歳くらいだと思う。
ふつー貴族のボンボンなんて従者に買わせるものなんだけど、この令息は自分で買うの。
社会勉強だろうか、それともあたしがとっても可愛いから直接買いたい?
美しさは罪ってのはさておき、こーゆー方が来てくれるとありがたいのだ。
貴族の舌を満足させるくらいのおいしさだってことの証明になるし、大体この令息も品があってカッコいいし。
「いつも買ってくれるから、今日は新商品のパンを一個おまけしといたよ。にこっ!」
アハハ、顔赤くなった。
純情令息などあたしの敵ではないわ。
だから味方だ。
毎度御贔屓に。
とまあ、うまいことやってたんだよ。
商売繁盛万々歳。
そんなある日のこと……。
「どういうことなのよっ!」
「今まで待っててくれてありがとう」
知らん貴族の令嬢らしき人が怒鳴り込んできた。
最初メッチャ混んでる時に来たもんだから、行列見えない? 常識があるなら出直してこいって言ったら、素直にアイドリングタイムまで待っててくれた。
だから実は『どういうことなのよっ!』ってのを聞くのは本日二回目なの。
一回目に言われた時からよーく考えたけれども、何のことやらサッパリ。
「で? どーゆーことなのかって言われてもわからんのだけど」
「イアン様のことよ! イアン・ハームズワース侯爵令息!」
「その侯爵令息がどうかしたの?」
「何なのあなた。まるで他人事みたいに」
他人事なんだもん。
ええと、あたしはオソノだよ。
あんたがブリアナちゃん、モーズレイ伯爵家の一人娘ね。
ほうほう、イアン様はハームズワース侯爵家の三男と。
イアン様とブリアナちゃんは婚約間際なのか。
人間関係は大体インプットされたよ。
「ところがイアン様、わたくしと婚約するのは嫌だと言いだして……」
「ええと、イアン様がモーズレイ伯爵家の婿に入るはずだったっていう理解でいい?」
「そういうことね」
「何でなん? 貴族だって家を継がない二男三男は身の振り方を考えにゃならんのでしょ? いい話だと思うけど」
「あなたもそう思うでしょう?」
「思う。モーズレイ伯爵家が潰れそうとか、皆して婿を虐める準備が万端とかでなければ」
「そんなことないわよっ!」
はて、じゃあどうしてだろ?
ブリアナちゃん気が強そうな感じはするけど可愛いし、イアン様を気に入ってるみたいだけどなあ?
うまくやれるんじゃない?
「今んとこあたし無関係な気がするけど、ブリアナちゃんは何しに来たん?」
「……婚約したくない理由を聞きたいから、イアン様を問い詰めたわ。ハッキリした理由を聞けたわけじゃないけど、パン屋の娘が気になるからって」
「えっ?」
「それでイアン様が通っていたというパン屋を探して……」
「イアン様とゆーのは、銀のサラサラした髪でおかっぱの繊細そうな令息で合ってる? あたし達と同じくらいの年齢で、もう何年かしたらまさに貴公子って言葉が似合いそうな?」
「そう、それっ!」
最近常連になってくれたあの令息がイアン様か。
他に貴族の令息っぽいお客さんいないもんな。
「ふーん、そーゆーことか」
「だからあなたがイアン様に色目を使ってるんでしょう! このドロボウネコ!」
「おおう、死ぬまでに言われてみたいベストスリーに入ってるセリフをここで言われるとは。色目じゃないけど、売り子がお客さんに愛想よくするのは当たり前だろーが」
「で、でも……」
「大体平民に熱を上げて婚約したくないなんて言ってるのが本当なら、今の段階でポシャって正解なんじゃないの? ブリアナちゃんに傷がつくこともないでしょ?」
「……お父様と同じことをあなたも言うのね」
「常識ってやつだよ。ただ……」
確かにイアン様、初心なところのある令息だとは思う。
だけど考えなしの人には見えないけどなあ?
いや、商売人であるあたしの見る目は大したもんなの。
「……イアン様の言い分が中途半端過ぎるじゃん?」
「それしか聞き出せなかったのだもの」
「何でパン屋の娘なんて言いだしたんだろうな? あたし名前も聞かれたことないぞ?」
「そうなのね?」
「そうそう」
逆にイアン様の名前も知らなかったくらいだしな?
上客だからサービススマイルを割増してることは本当だけど、そんなんで平民であるあたしに惚れちゃって婚約やめるなんて言いだすなら、マジで捨てたほうがいい。
「ブリアナちゃんはイアン様のこと、好きなんだよね?」
「もちろんよ。だからこんな場末のパン屋まで足を運んだんじゃないの」
「場末ってゆーな。ブリアナちゃんの父ちゃんは、イアン様を諦めろってゆーニュアンスなんじゃないかと思うんだけど。ブリアナちゃんの話を聞く限りでは」
「……その通りだわ」
「それでもイアン様がいいと?」
「……ええ」
ブリアナちゃんの思いは十分に伝わった。
「ブリアナちゃんだけではさっき以上の事情をイアン様から聞き出せなかった。でもあたしがいれば違うかもしれないじゃん?」
「もう一人の当事者ですものね」
「うん。あたしだって半端に関係者にされても困るわ。ブリアナちゃんが営業妨害してくるし」
「ご、ごめんなさい」
「冗談だとゆーのに。イアン様とブリアナちゃんとあたしで話してみたいね。そしたらイアン様がまだ話していない、真の理由を聞けるんじゃないかな」
「そうね、あなた頭いいわ!」
「あたしのおつむは最高なんだよ。逆にそれでも何も出てこないようだったら、何ちゃら侯爵家側に言いたくない理由があるのかもしれんじゃん? すっぱり諦めよう。男は星の数ほどいる」
「……ええ。わかったわ」
「よーし、決まった。あたし明後日が定休日だから時間があるんだよ。イアン様に会うの二日後でどーだろ?」
「わたくしも大丈夫だわ。急いでイアン様にアポを取ってみましょう」
さて、どーなるかな?
◇
――――――――――二日後。ハームズワース侯爵家邸にて。
「イアン様って今はどっちかというと可愛い系に寄ってるけど、この何年かで絶対凛々しい系になるよね」
「間違いないですわ。わたくしが保証いたしますわ」
ブリアナちゃんとイアン様ん家に押しかけた。
まあ平民のあたしじゃ門前払いされるだけだったろうけど、婚約者候補の伯爵令嬢ブリアナちゃんがアポ取ってくれたから。
そうしたらイアン様沈痛な顔なんだよ。
あんまり好きな表情じゃないんで、軽口から入ってみました。
ちょっとイアン様の表情が和らいだんでよかった。
「で、イアン様の顔の造作はさておき」
「さておいてはいけない部分だと思いますけれど」
「あたしも同感だね。でも話が進まないじゃん。イアン様がブリアナちゃんとの婚約を拒否する理由は何なん?」
ズバリ聞いてみた。
そしてあたしとゆー可憐な存在を持ちだしたのは何で?
あたしが知りたいのは主に後者の理由だけど。
「僕は……ブリアナ嬢の婚約者には相応しくない気がして」
「「えっ?」」
それこそ何で?
何ちゃら侯爵家という家柄を評価されてブリアナちゃん家に婿入りって話なんでしょ?
揉める要素なくない?
「相応しくないなんて。どうしてそう考えたのですの?」
「うん、これは傍からはわからんな。イアン様とブリアナちゃん、お似合いだと思うけど」
「……僕は画家になりたいんだ」
画家?
そりゃまた浮世離れした職業だね。
「イアン様が絵を描くことを好んでいる、とは存じておりますわ」
「僕に何ができるかと考えた時に、自信があるのは絵ということなんだ。父様には絵を描いて何になる、目を覚まして勉強しろって言われるけど」
「イアン様も来年わたくしとともに王立学院に入学ではありませんか。懸命に学ぶことは重要だと思います」
「絵は趣味じゃダメなん? 画家なんて相当難しいんじゃないの?」
とゆーかイアン様知らんかもしれんけど、絵描きって極貧の人多いよ?
お金で成功失敗を判断しちゃいけないのかもしれないけど、絵描きで伯爵家の婿以上の収入を得るなんてムリだろ。
「描くだけ描いてダメならもちろん諦めるさ。でも一度きりの人生、チャレンジしないというのは男らしくない気がして」
「イアン様……」
「もちろんこれが正しい考えじゃないってことは、父様に言われるまでもなくわかっているんだ。だからブリアナ嬢に迷惑をかけられない」
ははあ、イアン様ドリーマーの傾向があるんだな?
でも周りの人達にバカなことやめろって言われて、意固地になっちゃってるんだろ。
周りの人達が正しいんだろうけどなあ。
「ねえオソノ。あなたも知恵を出しなさいな」
「そー言われても。イアン様はブリアナちゃんのこと嫌いじゃないんだよね?」
「もちろん。明るくて素敵な令嬢だと思う。だからこそ僕の巻き添えにはできない」
「イアン様のそのセリフさあ。自分でも成功の確率高くないってわかってるんじゃないの?」
「……」
俯くイアン様。
空気が重いなあ。
イアン様もわかってて破滅に突っ込もうとしてるのがよくないよな。
視野が狭くなって、引くに引けなくなっちゃってるっぽい。
「ところでこの話、どうあたしが関わってくるのかな?」
意識して話題を変えてみた。
パン屋の娘が気になるって言ってたそうだけど?
「オソノさんをモデルに絵を描きたいと思ったんだ」
「えっ?」
「繁盛しているパン屋の看板娘で、キビキビ働いている様がとっても魅力的だったから……」
「ありがとう。べつに絵を描いてもらうのは全然構わんけど、ブリアナちゃんとの婚約どうこうには関係なくない?」
「繁盛店の女の子をモデルにするにはどうしたらいいかって、父様に相談したんだ。そうしたらお前はもっと将来のこと、婚約のことを真剣に考えろ。絵ばかりにうつつをぬかすなって、頭ごなしに言われて僕もカチンと来てしまって……」
そんであたしが関わるのか。
とんだとばっちりだな。
うちのパン屋が何たら侯爵家やかんたら伯爵家に恨まれたらどーしてくれる。
解決策を見出さなきゃならんが……。
「婚約のことを真面目に考えろってのはイメージしやすいんだけどさ。将来のことってのは具体的に何を指すのかな?」
「わたくしとの婚約が前提になっているなら、立派な領主としての実務ということだと思いますけれど」
「領を発展させるためのヒントになるようなことを考えろということだろうね」
「なるほど? じゃあ絵を描くことが領の発展に繋がるなら構わんわけだ」
「「えっ?」」
閃いた、チャンスだ。
あたしの話術で言いくるめたる。
「うちのパンをどう思う?」
「大変美味でしたわ。正直香り高くて驚きましたわ」
「冷えてもおいしいんだよね。僕はファンだよ」
「二人は褒めてくれるけどさ。実はうち、そう儲けが出ているわけではないの」
「どうして? やたらと売れているでしょう?」
「単価が安いから」
「値上げすればいいだろう?」
「値上げするとお客さんは安くて不味いパン屋に流れちゃうんだよ」
貧乏人の可処分所得には上限があるからとゆー切なさ。
お貴族様みたいな富裕層には理解の及ばん部分かもしれんけど。
「ブリアナちゃんが言ってたじゃん? 場末のパン屋って。あれは正しくてさ。あの辺で売るんだったら商品の値段は上げられないの。じゃあ儲けるためにはどうしたらいい?」
「もっといい場所で値段を上げて売ればいい」
「そーゆーこと。で、もっといい場所に移転するために、侯爵家と伯爵家でうちのパン屋に出資してもらえない?」
「「えっ?」」
「お貴族様が自家を繁栄させるために事業に投資するのはありだと思うがな。うちには売れるおいしいパンを作るノウハウはあるけど、お金と信用がないからこれ以上の事業拡大ができないわけよ。そこんところを侯爵家と伯爵家で補ってくれないかってこと」
イアン様とブリアナちゃんが考えてる。
うちの父ちゃんももっと大々的にパンを売りたい、それには王都の中心部に店を構えたいけど金がないんだよなあ、と常々こぼしているのだ。
ウィンウィンだろ。
「……そうか、資金と信用があれば、あのパンはもっと売れる……」
「もう少し情報を出そうか。侯爵領と伯爵領では小麦作ってない?」
「もちろん作ってますわよ」
「農業くらいしか目立った産業がないんだ。だから父様も商売ネタを考えろみたいなことを僕にも言うんだけど」
「うちのパンが美味い理由の一つに、小麦粉の配合比率があってさ。うちの指定する品種の小麦粉を安く卸してくれたら利益率は上がるよ」
「その小麦を領で作れってことか」
「そうそう。卸の商人を間に入れない直接取り引きならば、農家側は高く売れる、パン屋側は安く仕入れられるってことになるでしょ?」
しきりに頷く二人。
「オソノさんの話はすごくワクワクするね。父様も乗ってきそうではあるけど、僕が絵を描くこととどう繋がるのかはわからないな」
「利益率ももちろん重要なんだけどさ。トータルの儲けが大きくなるためには、ガンガンパンを売らなきゃならないじゃん?」
「生産した小麦粉の消費量にも関わりますものね」
「そうそう。だから二号店三号店ってのも今から考えなきゃいけないわけよ。で、一目でああ、あのうまーいパン屋の系列店だってわかるデザインが欲しいの。そーすりゃお客さんが安心して買ってくれるでしょ?」
「……そのデザインを僕が描けばいいのか。オソノさんとパンの絵を……」
「難しいぞ? 看板として目立つことはもちろん、食べたくなるよーなパンが表現されていなきゃならない。もちろんあたしの魅力を余すところなく前面に持ってきて」
「僕が描く。描かせてください!」
「じゃあまず侯爵様伯爵様と相談してきてね。イアン様とブリアナちゃんの婚約を込みでね」
おいこら。
二人して今更赤い顔になるな。
こっちが恥ずかしいやないけ。
「うちの父ちゃんは必ず乗ってくる。侯爵様伯爵様の了解が出たらこの計画はスタートだよ」
「オソノさん、ありがとう」
「驚きましたわ。あなた頭がいいのね」
「父ちゃんの受け売りだよ」
さて、どーなるかな?
◇
――――――――――その後。
大体あたしの筋書き通りに動いた。
イアン様とブリアナちゃんは婚約しました。
おめでとうございまーす。
『オソノベーカリー』はハームズワース侯爵家とモーズレイ伯爵家(あたしも両家の家名を覚えた)の共同事業になった。
お貴族様が関わってると展開が早いわ。
王都のえっらいいい場所に移転して新装オープン、パンは値上げしてるんだけど目論見通り大繁盛してます。
父ちゃんは雇われ店長だね。
でも今までよりも稼げるし、時間ができて新しいパンの開発ができるって喜んでるよ。
お店のノウハウを引き継いだら経営から身を引いて、父ちゃんは技術顧問っていう形になるみたい。
パン窯や焼き菓子なんかの派生品の研究をしたいようで。
パンバカだから。
ま、父ちゃん欲かかないしな?
俺のパンにひれ伏せってゆー性格ではあるけど、店に拘ることはないの。
お貴族様に逆らうようなこともしないんで、とっても順調だよ。
侯爵様や伯爵様も、現場のことは現場に任せるべきだってわかってるし。
イアン様に依頼した『オソノベーカリー』のイメージデザイン?
何度リテイクしたかわからんけど、納得のものができたわ。
イアン様ヒーヒー言ってたね。
顧客を満足させることは大変だと理解できたと思う。
それは絵描きも一緒。
イアンに厳しさを教え込ませてくれたことに感謝するって、侯爵様に言われたけどたまたまだわ。
べつに厳しくした気はなかったけどな?
で、ここからあたしの筋書き通りじゃなかったこと。
「オソノさんも王立学院に入ろうよ」
「えっ?」
「そうよ。あなたもわたくし達と同い年なのでしょう?」
これからは上客をゲットしていかなきゃならん。
あたしが王立学院に通うことは意味があるか。
ハームズワース侯爵家とモーズレイ伯爵家にお金を出してもらって、王立学院に通うことになった。
「あっ、パンの令嬢?」
「オソノだよ。よろしくね。にこっ!」
「わあ、そっくり!」
あたしは『パンの令嬢』(令嬢なんてこっぱずかしい)として、王立学院入学後すぐ有名になった。
看板のデザインはかなりデフォルメされてるのにな?
一発であたしとわかるのがすごい。
リテイク出しまくった甲斐があった。
イアン様ありがとう、そしてごめん。
こーなるとあたしも、人脈さえしっかりすれば悪い成績でいいとゆーわけにいかなくて。
だってあんなパン食ってるから頭が悪くなるなんて言われると、売り上げに影響してしまう。
学費出してくれてるハームズワース侯爵家とモーズレイ伯爵家の見る目がない、って言われちゃう状況もよろしくないじゃん?
必死で勉強したら座学ではトップだったわ、マナーを除けば。
そしたら父ちゃんが『頭脳パン』っていう新製品を、頭がよくなるって触れ込みで売り出した。
頭脳パンメッチャおいしいんだよ。
あたしの好きな要素で固めたって、父ちゃんが笑ってた。
あたしが美味い美味いって頭脳パンばかり食べてるもんだから、本当に頭がよくなるらしいって、かなりの信憑性をもって噂になった。
成績は単なるあたしの努力だと言いたいが、父ちゃんの売り方の頭いいことだけは否定できない。
「婚約者? あたしを?」
イアン様の父ちゃんの侯爵様が、あたしのことをすごく買ってくれてるんだよね。
平民だけど頭がいい、機を見るに敏だ、プレゼンが抜群だって。
それでイアン様の一つ上の兄ちゃんサミー様と婚約はどうかってことになった。
この時パン事業は絶好調で、王都内に三号店までオープン、またハームズワース侯爵家領とモーズレイ伯爵家領にも新店ができたの。
そりゃ人間なんてパンなしでいられない生き物だ。
『オソノベーカリー』は元々のレシピと安い小麦粉を入手できることから、おいしいパンをリーズナブルな価格で売り出せるじゃん?
売れるに決まってる。
パン事業はハームズワース侯爵家とモーズレイ伯爵家の出資半々の共同事業だけれども、どっちかというと伯爵家側がメインでやってるんだよね。
だからあたしを引き込んで発言力を確保しておきたいっていう、侯爵様の思惑があったんだとは思う。
サミー様剣術バカだけどいい人だよ。
何でもかんでも美味い美味いって食べてくれるの。
参考にならん意見だって、試作品を食べさせてた父ちゃんがブツクサ言ってた。
ただサミー様が剣術トーナメントで勝ち上がると、『オソノベーカリー』のパンは剣の腕も上達するのか? って評判になった。
さあ、どーかな? ふふーんって誤魔化してたら、まあ売れる売れる。
偶然も味方してパン事業はさらにどんどん大きくなったね。
でもいいことばかりではなくてさ。
王立学院最終学年の今年は小麦が不作だった。
幸い夏まで天候不順を持ち越さなかったけど、パンの値段が上がることは庶民にとって死活問題なわけよ。
『オソノベーカリー』もレギュラー販売のパンを値上げせざるを得なかったんだけど……。
「長期保存パン?」
父ちゃんが長期保存できる硬いパン『カンパン』を開発していて、既に大々的に売り出す直前だった。
ほぼ儲けなしで販売したため、庶民層に爆発的に売れた。
初めて前年比大幅減益だったんだけどさ。
『オソノベーカリー』の名声が高まったし、王家が非常食として『カンパン』を大量に買いつけてくれることになったので、結果的にはよかった。
今?
お弁当の焼きたてパンその他を持って、剣術道場に差し入れだよ。
「じゃーん! はい、サミー様。今日の試作品は『勝利のクロワッサン』だよ。バターたっぷりだから、しっかり稽古して消費してね」
「ああ、オソノ。お前が持ってきてくれるパンが、世界で一番美味い。これで次の大会も優勝間違いなしだ!」
「相変わらず雑な食レポだなー」
アハハ、サミー様はすげえおいしそうに食べてくれるから、見ているこっちも嬉しいんだ。
イアン様とブリアナちゃんは相変わらず仲良いんだけどさ。
サミー様はこんなことを言うの。
「イアンとブリアナ嬢は前座みたいなもんだろう?」
「前座? どゆこと?」
「オレとオソノの出会いを作ってくれた。よきにはからえってことさ」
臆面もなくぬけぬけと言うんだよなあ。
サミー様はいつも熱くて、聞いてるこっちが恥ずかしいくらい。
でもそんなところが好き。
いつまでも熱々って、パンにない良さだと思うから。
冷めても美味いパンもいいけど、毎日この熱々に甘やかされるのも悪くないとあたしが決めた。
途中までオー・ヘンリーの『魔女のパン』をへ理屈捏ねてハッピーエンドにする話を書こうと思ってたんですけれども、全然違う話になりました。
『魔女の宅急便』を見ちゃったから(笑)。
ではなく本作ではパン屋に来るのは貴族の令息でしたので、ボロパンを自分で買いにくるというシチュエーションにリアリティがなさ過ぎましたね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




