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暗闇を流れる川

作者: 仙五郎
掲載日:2026/07/17

 ニックは竿を振り上げた。弧を描くように竿をまわし、糸を水面に叩きつける。毛針が七本並んだ糸の先には黄色い丸浮きがついている。浮きはピシャッと音を立てると静かにゆっくりと流れていった。

 山の端に陽が沈んでから徐々に暗くなり始めた。遠くに見える山の頂が赤く燃えていた。紫色の空に星が瞬き、水鳥の鳴き声と水面をはねる魚の音が聞こえた。

 何度も腕を振り上げ、竿を振りまわしては糸を水面に叩きつける。手応えはない。闇のなかで川は黒い塊になってすべてを連れ去っていくようで、ニックを少し不安にさせた。膝まで水に浸かった足に、ときおり小魚が触れた。

 闇に包まれた。川沿いの道路脇に立つ電灯の明かりだけが頼りだった。

 何度も何度も竿を振り下ろす。

 突然、手応えがあった。丸太ん棒が引っかかったような鈍い感触。川上に向かって腕を突き上げ、針に掛かった獲物の正体を確かめようと息を止めた。

 竿から躍動が伝わってくる。

 魚だ。大きな魚だ。

 ニックは竿を立てたり、斜めに傾けたりしながら獲物とのやり取りを楽しんだ。無我夢中だった。

 ふっと腕が軽くなった。黒い影が宙を舞っていた。影はすぐに大きくなって、ニックの左胸にどすんと当たった。慌てて両腕を交差させ、暴れる魚を必死に押さえつけた。左腕と胸の間で跳ねまわる魚は思ったとおり、かなり大きかった。竿を右脇に挟んで右手を自由にしてから、両手を使って針を外した。腰に吊り下げた魚篭に魚を滑り込ませると、川の水で手を洗い、腰篭に手をあてた。

 ニックは右手で竿を振りまわしながら、道路脇の電灯を目指して川の中を歩いた。糸の先の浮きがひゅうひゅう音を立て、足もとでは水がさざめいていた。

 篭の中で魚が跳ねた。

 暗闇はもう怖くなかった。


 (了)


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