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安寧の世

食料生産と人工管理と徹底した道徳教育を成功させて他国にも伝授して広めた結果、国内で戦が起こらぬようになった。

残酷がすばらしいのではなく優しさがすばらしいという価値観の世にできたのは、情報を制したからじゃ。

わしは伊賀や甲賀の忍者を雇い、全国に派遣した。

忍者は「影の諜報員」であり、情報収集が本業じゃ。

商人に変装して敵地に潜入し、会話や町民の様子から情報を引き出す「陽忍」を得意とし、周囲に溶け込む適応力、聞き込み能力、高度な記憶術を駆使して敵の動きを把握しておる。

忍者からの情報は江戸のわしのもとに届く。戦の火種があればわしはすぐに火消しに走った。

情報収集だけでなく情報拡散もしてもらう。

わしがいかにすばらしい人間であるか世の中に広めてもらったのじゃ。

江戸の統治は完璧で最先端の都であることも噂してもらった。

その結果、わしは民衆から神のように崇められるようになった。

実質、天下人のようなもんじゃ。

みなにサルと呼ばれて慕われておる。

前世では天下人の実名は神聖視され、庶民が軽々しく呼ぶことは不敬とみなされたり、呪術的な恐れがあったりしたため、呼び捨てにするなどは言語道断じゃったが、わしが「わしは山の神の使い神猿まさるじゃからサルと呼んでくれ。

魔が去る、じゃから、呪われたりせん。厄除け、魔除けになる。勝るじゃから勝負運もよくなるぞ」

と説明したら、みなはわしを信仰するようになった。

国内で戦が起こらぬから巨大な軍事費を別のことに使える。

戦の費用は莫大じゃ。

鉄砲や火薬の購入、傭兵(足軽)の雇用、兵糧米の確保など、いくら銭があっても足らぬ。

戦国大名は「銭がなくては戦はできぬ」を合言葉に、領国経営で得た収益や貿易で得た金を軍事費に投入しておった。

わしは軍事費に投入されていた銭を医療・医学・芸術・南蛮貿易に注ぎ込んだ。

郷土から新たな文化や偉人を生もうと諸国もわしの真似をしよった。ええことじゃ。

南蛮渡来の知識や道具を庶民が手軽に触れられるようにするめに、南蛮渡来の品を大量に輸入して安価で販売した。

面白いものはみんなに触れてもらい幸せになって欲しい。

楽しいことに夢中になればばかばかしくて戦などせぬ。

おもに仕入れた南蛮渡来品は以下の通りじゃ。

眼鏡、時計、ガラス製品、石鹸、タバコ、マント、カルサン(短ズボン)、ボタン。

美術・学問: 油絵、地球儀、西洋楽器(オルガン、クラヴォ、ヴィオラ)。

民草はおおよろこびじゃった。天下人として民草の笑顔を見るのはうれしいもんじゃな。

メガネは非常に高価で特権階級の持ち物じゃったが、メガネを貧しくて目の悪い者にも配るために国産化した。江戸に立派な眼鏡屋を作ると全国にも広がった。

わしの知るメガネは「手持ち式(眼鏡を直接目に当てるタイプ)」じゃが、頭の良い者が耳にかけるメガネを思いついて、これが全国で大流行する。

さらに眼鏡職人が2枚のレンズを組み合わせて、物が大きく見えることを発見した。

わしは資金を提供するからもっとメガネの研究をせい、と命じた。

これが顕微鏡の発明につながる。

資金を投じて完成した高性能顕微鏡は細菌なる「小さな生き物」を発見した。

細菌を研究したいという者が大勢現れたのでこやつらにも投資した。

すると抗生物質という奇跡の薬を発明しよった。

おかげで遊女たちが苦しんでおった性病まで治る。

医学・医療への投資もうまくいって麻酔が発明され手術が可能になった。

今まで不治の病だった病気が治るようになったのじゃ。

磁石を研究したいという変わり者がおったので当然、投資した。

こやつは電気なるものを生み出す。

電気は江戸の町を明るくした。

あまり科学が発展すると町並みが崩れてしまう。

わしは町並みを保護しつつ文明の発展に尽力した。

城や白壁の町並みをは変えないほうが海外からの観光客を大勢呼べると考えたのじゃ。

いまのままのほうが伝統的で郷愁を誘い美しいからの。

前世では人を殺すことに生涯情熱を捧げ莫大な国費や国力を注いでおったが、その時間と情熱と国費と国力を人を生かすことに使えばこれほどのはやさで文明が進化するとは驚きじゃ。

わしは数百年以上、時計の針を進めてしもうたんじゃないか?

天守閣から美しい江戸の夜景を眺めておるわしにタマは冷静に説明してくれた。

「科学が発展する理由は主に経済的な投資(研究開発費)と人材育成(教育・基礎研究)の相互作用なんだよ。国家の成長や産業競争力の強化において、教育と投資は車の両輪であり、持続的な発展にはこれらへの資源配分が不可欠なんだ。軍事費に使われるはずだった日本国内の巨額な資金がこれらにすべて投じられたんだから日本が驚異的な発展するのは自然な流れだよ」

「そうであったか。わしは明君じゃな」

「認めたくないけど、さすがは戦国随一のアイデアマンだね」

「タマにほめられるとはな。幸甚こうじんの至りじゃ」

「まだまだぜんぜん許してないからね?」

「わかっておる」

わしは江戸を家康に譲ることにした。家康を江戸に呼んで10年が経ち、あやつも30才じゃ。

もうすべてを任せられる。

わしのかたわらですべてを学ばせたのでもはやわしの分身といっても良いぐらいじゃ。

わしは36才になった。

生まれて初めて日本を飛び出すことにする。

日本国でうまく行った統治の術を海外に輸出するのじゃ。

日本に来た外国人から学び外国語もいくつか覚えておる。

わしはまず朝鮮半島に渡った。旅行気分のタマもいっしょじゃ。

「世界一周の旅楽しみ♩」

タマは光る水面を眺めて楽しげじゃ。

朝鮮の大地を踏み締めたわしは朝鮮征伐のあやまちを詫びながら手を合わせた。

朝鮮の国王に謁見する。

手土産に統治の術を書いた書物を渡し、大道芸と芝居を披露すると大好評じゃった。

次は明じゃ。わしらは世界中を巡った。

砂漠のオアシスでひと休みする。

「世界中の王がぜったいにあんたの教えに従うとは限らないよ?」

「心配いらぬ。わしの熱心な信者が命を賭けて海外を巡り布教してくれておる。燎原の火が広がる勢いでわしの教えは世界中に広まっておるのじゃ。王も道徳に呑まれ徳治主義に染まる」

「覇道主義の終焉かぁ。うまくいけばいいけどね」

「人の本性は前じゃ。日本でうまく行ったことは世界でもかならずうまくいく。のお?」

わしはラクダに問いかける。ラクダは歯を剥き出して笑い、わしも笑った。

14年後、日本に戻ると家康たちが盛大に出迎えてくれた。佐吉の姿もある。

わしが召し抱えるように伝えておったからの。

まだまだ世のため人のために尽力したいが、残念なことにわしの寿命は尽きようとしておった。

前世の寿命より短いのは肉体を酷使しすぎたからじゃ。体が悲鳴をあげておる。

日本狭しと走りまわり、時間の許す限り人と触れ合い心を通わし、世界中を駆け巡った。

ずっと早馬に乗っておったような気分じゃ。

わしは最期の時が近づいておるのを悟った。

わしの帰還を祝い家康は酒宴を開いてくれる。

余興として、わしはみなの前で敦盛を披露した。

本能寺の変で信長様が炎に包まれながらも踊ったという伝説の舞じゃ。

「人生五十年〜下天の内をくらぶれば〜夢幻の如くなり〜♩」

うたげはおおいに盛り上がった。

その晩、わしは天に召された。

拍手に包まれてわしは目覚めた。困惑しながら身を起こす。閻魔庁じゃ。

涙を流すコロと大勢の鬼たちが拍手してくれておる。

「なかなかおもしろい見世物じゃった。約束通り10億年減刑してやろう」

閻魔大王様はニカっと笑った。笑顔も怖いのぉ。子供なら泣いておる。

ということは泰平の世は実現できたようじゃな。わしはホッとする。

「待って!もっと減刑してあげて。今回のサルはよくやったよ」

鬼たちをかきわけてタマが現れた。閻魔大王様は眉根を寄せる。

「情状証人か。ならば、出血大サービスじゃ。1京年減刑してやろう」

「閻魔大王様、愛してる!」

タマは嬌声をあげる。閻魔大王様は太っ腹じゃ。

「ありがとうございます。タマもかたじけない」

「いいってことよ」

タマは指でハサミを作った。

「ほらいくぞ」

獄卒に連行されるわしの背に声がかかる。

「駒姫は天国で両親と幸せに暮らしてたよ。タマも一緒に暮らした。いまは生まれ変わってアイドルやってる」

わしはこぼれる涙を止められなんだ。

わしが毎朝、殺めたすべての人々が幸せでありますようにと朝陽に祈っておったから教えてくれたんじゃろう。昔、何を祈ってるのか聞かれて答えたのをずっと覚えておったんじゃ。タマはやさしいのぉ。やはり猫は大好きじゃ。

「日吉丸〜!1億年後に面会に来ますぞ〜!」

コロの叫びが聞こえる。

面会が1億年に一度じゃとしても楽しみじゃ。それを希望の光として地獄で生きていける。

わしは針山に突き落とされながら静かに微笑んだ。

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