だれも死なない世界線
前述の通り村長の座は村長に大金を払って手に入れた。
みな金に弱いのぉ。
不満を言う村人はお金で黙らせればよいが、その必要はなかった。
村人からも人望が厚いわしはすぐに村長として受け入れられる。
日頃から悩み事の相談に乗ったりいっしょに相撲をとったり酒や食料をわけておったのが良かった。
村の若者には幼少期から野原を駆け回った竹馬の友も多く、わしはガキ大将として弱い者いじめが起こらぬように目を光らせておった。
泰平の世を目指すわしの策略は生まれた頃よりはじまっておったのじゃ。
先の先を見据えておる。
信長様にも村長に就任したことを伝えた。ふるさとを発展させたい。ふるさとのために尽くしたい、という郷土愛を見せればすぐに了解が得られたわい。
さて、これから先は銭を管理する人材が必要じゃ。わしは長束正家殿を仲間に率いれた。
算術に優れており戦国随一の経理の天才じゃ。
丹羽長秀殿に仕えておったが、大金を支払って一時、借り受けるという条件で引き抜いた。
前世でわしが命じた全国の収穫高を一斉調査する太閤検地の実務を取り仕切ったのも長束正家じゃ。
こやつには全幅の信頼を置いておる。
さて泰平の世に導くためには戦をなくさねばならん。
まずは戦さの火種を消す必要があった。
戦国時代の戦さの理由は主にこの3つじゃ。
領土拡大と食料確保: 領土(農地)を広げて石高(米の生産量)を増やし、経済力と兵力を高めるため
権力闘争: 天下統一や、周辺大名との勢力均衡、または生存競争
商権の拡大: 鉱山(金・銀)や港などの経済的要衝の奪い合い
わしは食糧問題解決のために村で肉食を流行させた。
この頃、肉食は武士の間では流行し始めたが、一般大衆にはまだ浸透してなかった。
肉食が禁忌とされた時代が長かったからの。
仏教の「不殺生戒(生き物を殺さない)」という教え、神道の「血の穢れ」を忌み嫌う観念、そして牛や馬を貴重な労働力として保護する政治的・経済的な判断が重なったためじゃ。
わしや信長様は合理主義に基づき、牛肉や猪、熊を「薬」や「栄養源」として好んで食しておった。
肉は最高じゃ。もりもり元気が出る。
わしは農民にとうもろこしを大量に育てさせて家畜の餌とした。
繁殖させた鳥・豚・牛を村人にどんどん肉を食べさせた。
米がなければ肉でお腹を満たせばよいのじゃ。
大事に育てて感謝の気持ちを持ってありがたくいただけば良い、と村人には伝えた。
魚の養殖にも乗り出す。淡水でコイやフナの飼育・養殖を盛んに行なった。
さらに米の生産力を上げるために治水・灌漑の整備を行なった。
治水工事は前世で経験があるからお手のもんじゃ。
災害が起きても川が氾濫せぬようにしたのじゃ。
農業生産力を高めるために河川の水をせき止めて田畑に引く「堰」や、水を貯める「ため池」の建設も行なった。天候不順による水不足の時の備えじゃ。
大規模な護岸工事と河川の付け替えですべての田んぼに水を引く。
これで水戦争も起こらぬ。
おかげで米の収穫高は爆発的に向上した。
わしは前世の太閤検地で全国一律の基準で田畑の面積と収穫量を調査させた経験もあり、太閤検地を取り仕切った長束殿もおる。
村でできる農産物の収穫量と家畜の数は完璧に把握できた。
次に人口管理にも目を向ける。
清潔な魚の浮き袋を利用した避妊具を村人に配った。人口が増え過ぎると食糧不足になる。
食糧不足になれば食糧を奪うために他国に攻め込む戦が起こる。
他国の領土を奪い領土を増やして米の収穫量を上げようとする。
子供を殺める口減しも行われる。
不良外国人が日本人を奴隷として海外に売り飛ばしておったのも国内に日本人が余っており、彼らに飯を食わせることができぬからタダ同然で売り飛ばされたんじゃ。
国内で飯が食えぬなら食わせてくれるところに行くのは当然じゃ。
3年後、食料問題と人口問題は完璧に解決した。年貢を納めてもたっぷり余るほどに食料は豊富で人口もちょうど良い人数じゃ。
刀狩りを実施して村人が隠しておる武器を没収した。一揆を防ぐためじゃ。
戦の火種になるものはすべからく消さねばならん。
さらに道徳教育もほどこすことにする。わしは地獄を経験しておるから地獄がどんな恐ろしいところかこと細かく語ることできる。実体験じゃから迫力満点じゃ。
悪さをすれば地獄に落ちる。いいことをすれば極楽浄土に行ける、と村人たちに説いて回った。
効果は抜群じゃった。この時代は祟りや怨念をみんなが信じとる時代じゃったからの。
競って徳を積むようになった。
激しい炎に焼かれる苦痛が永遠に続くと言われたら、誰だってそんなところに行きとうない。
体が不自由な者には家と食べ物を提供し、看病する者もつけた。
ケンカせず得たものはわけあい情報や知識は共有し、威張らず驕らず他人を傷つけないように生きるように言い聞かせた。
さらに銭や暴力が支配する社会ではなく道徳が最高の価値となる社会をわしは築いた。
残虐であることが素晴らしいとされる戦乱の世で真逆の価値観を浸透させた。
城下町と村を行き来して働けたのは忍者修行で人間を超越した体力を手にしておったおかげじゃ。
厳しい修行は無駄じゃなかった。体力回復の方法も心得ており、温かい風呂、ふかふかの布団、肉と魚を中心とした食事で一度もバテることはなかった。
信長様には定期的に村の現状を自らの口で逐一伝えた。
信長様は美濃と近江の国境近くに住んでいる【山中の猿】と呼ばれる障害を持った男に木綿20反を与えて『これを金に換えてこの者に小屋を建ててやれ。それから、この者が飢えないように毎年、麦や米を施してくれれば自分はとてもうれしい』と村人に頼んだ、というやさしい一面もある。
わしが村に住む障害者を手厚く保護しておることを知ると大変喜んでおった。
食料問題を解決し、人口を調整し、治安を良くし、道徳的な村人を育てる。
中中村でうまくいったので他の村にも同じやり方を伝授して回った。
もちろん信長様に許可は得ておる。
評判が良くなったわしは城下町の管理も任されることになり、町奉行に地位を与えられ、ますます大忙しじゃ。部下も大勢増えた。
前世のようにちょっとした間違いで手討ちにするような冷酷な真似はせず、間違いは寛容に許し、いつも機嫌良く過ごしたので職場環境は最高じゃ。
わしの人望はすごい勢いで増して行く。
興行主、村長、町奉行の3足のわらじをはいてわしは走り回った。城下町でもやることは同じじゃ。
隠し持っておる武器は没収、人口管理、道徳教育の徹底じゃ。雇用がない者たちのためにさまざまな仕事を作り、貧しき者が最低限、食べていけるようにと住居と食糧提供をほどこした。
金のない病人が入院する施設も作る。
自分の銭だけじゃなく国庫の金も使える身分になったので大胆な政策ができた。
湯水にようにお金を使っておるように見えるが、見世物小屋はいつも満員御礼じゃし、余剰の米や魚、肉で他国と貿易して大儲けしておる。
どこでお金が滞っているのかも長束政家のずば抜けた頭脳で見抜いてもらい、蓄財している長者にはお金を市場に流すように命じた。
金持ちも不正蓄財として没収されて刑罰を受けるぐらいなら金を使う。
お金の流れが良くなれば経済は常に活況じゃ。
信長様が実行しておった楽市・楽座も真似た。
これは商工業の振興と城下町の発展を目的に実施した商業政策じゃ。
座(同業組合)の独占的特権を廃止(楽座)し、市場の税や通行税を免除(楽市)することで、自由な売買を許可した。
長束殿に景気が加熱しすぎないように調整もしてもらった。
城下町の運営は順調じゃ。
同時にわしは織田家家臣団の運命を変えるために動いた。
城内の庭先で信長様への抗議の切腹しようとしておる平井殿を慌てて止める。
信長様はわしが善道すると平井長政殿に訴えて、信長様の不真面目さを理由に決して自害せぬように伝えた。
平井殿は教育係として信長様の素行不良に悩み、信長様を構成させるために切腹しておる。
信長様のお父上信秀殿の葬儀の最中に、いつものだらしない格好で現れた信長様は、なんと無言でお香を信秀の位はいに投げつけたのじゃ。
それ以来、真面目な平井殿はずっと悩んでおった。
わしはすもう好きな信長様にすもう大会を開催することを進言した。
信長様は喜んで承知する。豪華な景品も用意した。
「わしが優勝すればひとつ頼みごとを聞いて頂きたい」
チビで華奢な猿に優勝は無理だと思ったのか簡単に了承してくれた。
しかし、見事、優勝したわしは信長様にまともな格好をするように願い出た。つるんでいる悪童たちにもまともな格好をさせるように、と。
天性の身軽さと多彩な技で大柄な武将までも次々に打ち倒したわしに感心したのか、信長様はわしの願いを聞き届けてくれた。
平井殿の自殺未遂を止めたことも裏で伝えると、信長様は少し落ち込んでおったの。
命をかけてまで更生させようとした平井殿の気持ちが届いたのか信長様の素行不良は治る。
信長様の弟の信行殿にも会った。
信行殿は信長様の家督継承に不満を持ち柴田勝家殿や林秀貞殿らと組み謀反を起こす危険人物じゃ。
信長様との戦いに敗れた信行殿は一度は母の仲裁で許されたが、再び不穏な動きを見せたために病気で床に伏せておると嘘をついて信長様に呼び出され清洲城で謀殺される。
信行殿が再度謀反を計画した際、柴田勝家殿がは信長様へ事前に密告したのじゃ。
兄弟が殺し合う悲しい未来もどうにか変えたい。
信行殿は見世物小屋に芝居を見に来たので楽屋に招いて仲良くなった。
舞台に立つ美少女の1人に熱をあげておったので、謀反どころじゃなくなるように仕向ける。
人気のある美少女じゃったのでひいきの太客も多かったが、貢いで貢いで貢ぎまくりついに結婚までこぎつけた。毎日のように芝居小屋に通う信行殿はお金が尽きて、金策のためにわしの部下として見世物小屋の広報担当となって懸命に働いておる。
権力欲は削ぎ落とされ新年会の時に信長様と仲良く芝居の話をしておった。
柴田勝家殿とも仲良くなった。お市様に惚れておることを知っておったので、わしは2人を結びつける。鬼柴田と呼ばれる武骨な武将で色恋沙汰は不得手じゃ。
わしはお市様に手紙や贈り物をするように助言した。
信行派筆頭の武将である柴田勝家殿を味方に引き込めば信行殿は謀反を起こせませぬ、と信長様に進言したのもわしじゃ。信長様はお市様を柴田殿に贈った。
柴田殿は大感激。本来60まで独身じゃからな。柴田殿はわしと信長様には一生の忠誠を誓った。
柴田殿とお市殿の祝言でわしは涙が止まらんかった。前世で2人を自害に追い込んだのはわしじゃ。
信長様の死後に「織田家の主導権」と「後継者争い」が勃発し、清洲会議での決定や政治的駆け引きでわしが優位に立ち、柴田殿が反発して賤ヶ岳の戦いへ発展、最終的に柴田殿は敗れてお市様と自害なされた。今世では残酷な運命を止めることができて良かった。
わしも祝言をあげる。相手はねねじゃ。舞台役者を目指してた来た美少女の中にねねがおった。わしは今回の人生ではすべての時間を世の中を良くする使いたいので独身を貫くつもりじゃったが、ねねがしつこくつきまとってきたから根を上げて結婚してやった。
やはり運命の人じゃったのじゃろう。祝言で今回は浮気は絶対にせぬと誓ったら、ねねは目をぱちくりさせて不思議そうな顔をしておったな
忙しい合間を縫って那古野城にもちょくちょく通う。
村と城下町の進捗状況の報告だけじゃなく月に一度、織田家家臣団の前で地獄の話をさせらるのが常になっておった。
村人に語っておった地獄の話がおもしろいと評判になり信長様の耳にも届いたのじゃ。
帰蝶殿やお市様かたずを呑んでも聞いておられる。
「わしは地獄で過ごした記憶がすべて残っておるのです。前世で悪い行いを重ねたためにわしは地獄の最下層に落とされました。この地獄に比べれば他の地獄など天国のようなもんですじゃ。
無間地獄の猛り狂った燃え下がる炎が、罪人であるわしの皮膚に穴をあけ、肉に入り、骨の随まで焼き尽くします。
東西南北の四方から、間断なく炎が放射されてくるので間断なく焼かれ、苦しまねばなりませぬ。苦しみに責められた悲鳴が聞こえてくるので、他にも罪人がいるらしいことだけがわかります。
剣樹、刀山、湯などの苦しみを絶え間(寸分・刹那)なく受けました。背丈が4由旬、64の目を持ち火を吐く奇怪な鬼がおりました」
みなは震えを我慢しながらわしの話に聞き入る。帰蝶殿とお市様は信長様の両袖をつかんでおる。
「わしは今世で仏教に帰依して気づきました。人がこの世に生を受けた理由は自分を愛するように他人を愛する心を持ち、他人にやさしく思いやりを持つ人間になるためなのです。死んだ時に神様に聞かれるのたった一つのことだけです。あなたはどれだけ多くの人をよろこばせましたか?
わしらは現世の行いによって来世の能力や環境が決まるのです。
人にしたことはいいことも悪いことも全部跳ね返り、よい種を蒔けば良い実がなり、悪しき種を蒔けば悪しき実がなり、その種は決して消えることはない。
じゃから恐怖で他者を支配するのではなく徳を持って人民を治めるべきなのです」
信長様は腕を組み考え込んでおられる。
信長様は「南無妙法蓮華経」と書かれた軍旗を用いておったし禅宗の信徒であり仏教に強い関心がおありなのじゃ。断じて無神論者ではない。
わしの真心が伝わったのか、信長様は天下布武を口にしなくなった。
暴力によって天下統一を果たす気持ちが薄れたんじゃ。
鬼の心から仏の心へと少しずつ変化しておられる。
村長と町奉行として前代未聞の大成果をあげたわしは信長様に直訴した。
「信長様!村と城下町でうまくいったやりかたを他国にも教えましょう!
他国も食糧事情が改善すれば食糧不足を理由に戦を仕掛けて来ませぬ!
武力を使わずとも信長様の望む戦乱のない世は実現できますぞ!」
信長様は合理的で聡明なお方なので簡単に許可をくださった。
人的・経済的損失もなく領土を守れるなら、それが1番じゃと即座に理解されたのじゃ。
さっそく今川・武田・徳川・上杉・北条・大友・島津・伊達・長宗我部・比叡山など全国津々浦々を巡って理想的な統治の手法を伝授して回った。ついでに大道芸と芝居も披露する。
わしの足の速さに浮いてこられるのはタマだけじゃ。
タマと2人で全国を行脚した。途中、山賊や盗賊に襲われることもあったが、忍術で対処した。
今世では不殺を誓っておるのですべて峰打ちじゃ。手裏剣も手や足だけで急所は外す。
泰平の世になれば子悪党も姿を消すじゃろう。食いつめれば悪に手を染めるしかなくなる。
富める者が貧者に分け与えることが犯罪抑止力にもなる。
前世では小悪党どもはまとめて磔にして物理的に消滅させたが、今世では彼らを助けたい。
だれもが幸せに暮らせる泰平の世を目指して旅路を急ぐ。
未知の知識と娯楽をもたらすわしらは諸国の大名に大歓迎されて接待を受けた。
うたげの席で大名たちと親交を深める。人たらしと言われた話術が炸裂した。
忍びの里にも立ち寄って有益な情報と世話になったお礼に大判小判を渡す。
わしが戦で殺戮の限りを尽くした因縁の地に立ち寄り祈りを捧げることも忘れなかった。
切腹を命じた面々と再会した時は申し訳ない気持ちでいっぱいになり土下座した。
相手はなんのことかわからずぽかんとしておった。
全国行脚を終えたわしは尾張に戻り泥のように眠った。
さすがに疲労困憊じゃが、地獄の日々よりはるかにマシじゃ。
戦の火種をつぶさに消して回す作業に終わりはない。
まだまだ血生臭い世を浄化して行かねばならぬ。
深い眠りから目覚めたわしは庭に出て昇る朝日に手を合わせた。
参考文献
参考文献
『麒麟がくる』では描かれなかった、信長の教育係・平手政秀切腹のもう1つの説
こざきゆう(編集ライター、伝記作家)/真山知幸(著述家) ネット記事引用
織田信長の天下統一/ホームメイト 刀剣ワールド ネット記事 引用
織田信長は本当に神を恐れぬ無神論者だったのか。そのありえないワケ ネット記事引用 渡邉大門先生
会計経理の力で戦国大名となった武将3人。その人生から学ぶべきこと。ネット記事
織田信長公三十六功臣 ネット記事
織田信長の性格は怖いだけではなく、優しさや気遣いのできる人だった。 ネット記事引用 歴ブロ様
無間地獄・阿鼻地獄とは?刑罰の内容と苦しみ・刑期 ネット記事引用




