忍びの里
荷物は草むらで拾った小刀と角で作った針だけじゃ。
伊賀(三重県)の里までは走って向かった。春は山菜が豊富で川に魚もおり、山に鹿や猪やうさぎもおるから、道中の食料には困らんかった。タマも食料集めを手伝ってくれた。
山育ちなので山菜集めも釣りも狩りも慣れておる。タマは猫だけに魚が好物でむしゃむしゃばりばり食べておった。よろこぶのでいっぱい釣ってやった。
伊賀の里に向かう理由は忍者に弟子入りするためじゃ。幼き頃より鍛えねば立派な忍者にはなれん。
忍者の人脈も手に入れる必要があった。わしは伊賀の里の場所を信雄殿に聞いて知っておる。
伊賀の天正伊賀の乱(1578-1581)で織田信長様と信雄殿の軍は伊賀の忍者たち戦った。
信長様は伊賀を支配下におきたかったのじゃ。
伊賀の忍者たちは初戦は忍術を駆使して織田軍を撃退したが、最終的に5万の織田軍に敗北しておる。敗れた忍者たちはさまざまな大名に再雇用された。
家康も腕利きの忍者を飼っておったの。
関所に引っかからないように獣道を駆け抜けて2週間で伊賀の里まで到着した。
忍者は隠れ里に住んでおったが、わしは合言葉を知っていたので木こりにふんした忍者に険しい山道を案内されて中に入れてもらえる。
弟の秀長に仕えておった藤堂高虎が天正伊賀の乱後に伊賀を治める大名になり戦に敗れた忍者を「忍び衆」として藩に組織しておった。わしは高虎から酒の席で忍者の秘密をいろいろと聞いておる。
合言葉もそのひとつじゃ。
忍者の里で村長である服部半蔵に面会を果たし弟子入りした。
将来、必ずや伊賀の里に大きな報酬をもたらすと誓い弟子入りを許してもらったのじゃ。
その日から忍者になるための厳しい訓練がはじまる。
訓練は以下の通りじゃ。
・身体の訓練 (体術)
麻飛び(ジャンプ): 毎日成長する麻を飛び越えることで、数ヶ月で1メートル以上跳べるようになる、という伝説的な訓練。
忍び足: 畳の音を立てず、敵に気付かれずに歩く技術。
ワニ歩き・バランス: 全身の協調性と体幹を鍛える。
逆立ち・高所移動: 筋力とバランス力を養う。
技術・知識の修行 (忍術・隠形術)
隠形術: 草むら、物陰に隠れる、石に擬態するなどの隠身の術。
水遁の術: 水の中に隠れる、または水蜘蛛という道具で水上を渡る訓練。
火術・煙遁: 煙玉や火薬で敵を混乱させ、逃げる術。
符牒の術: 暗号や秘密のサインをやり取りする知識。
心・気の修行
呼吸法を学び、何事にも動じない「不動心」を養い、周囲の自然や状況を瞬時に読む能力を鍛える。
手裏剣・武器術: 本物の鉄製手裏剣や吹き矢、刀を使った技術。
忍者アスレチック・身体操作: 忍びの道具を使った壁登り、ロープでの移動、不安定な丸太渡り。
九字護身法: 精神を統一し、災厄を避けるための精神修行。
8年間の修行でわしは高い壁を乗り越えて1日100キロも走ることが可能になった。
伊賀の忍者たちだけはなく甲賀の忍者とも交流を深めた。
忍者人脈は今後のわしの計画に必要不可欠じゃからな。10代のうちに構築できたのは幸いじゃ。
伊賀と甲賀の忍者は協力関係なので甲賀の忍者の里にも気軽におじゃまできた。
わしはサルというあだ名でかわいがられ、生まれ持ったひょうきんな性格と人たらしの特技であっというまに人気者となった。
忍者たちに中でも以下の者は特に実力が飛び抜けておった。
猿飛佐助: 甲賀流の忍者。真田十勇士で最も人気のある筆頭。
霧隠才蔵: 伊賀流忍術の達人。佐助と並ぶ美形の忍者。
望月六郎: 甲賀流忍者。火薬や大筒の製造・使用が得意。
海野六郎: 忍術を駆使し、情報収集や幸村の右腕として活躍。
いずれ真田十勇士と呼ばれる面々じゃ。わしも彼らに匹敵する実力を兼ね備えておる。
わしの修行中、タマはみんなに服部半蔵の娘と思い込ませるまじないをかけて悠々自適に暮らしておった。気が向いたら、たまに忍者修行にも参加しておる。
猫の化身だけあって誰よりも筋はよかった。
15才になり忍術の免許皆伝を得たわしは生まれ育った村に戻ることにした。
みんなに別れを告げて忍者の里を離れる。
走って3日でふるさとに到着した。
途中で大きな暴れ猪を退治したので、それを手土産に村に帰還すると大歓迎される。
もちろん、村のみんなで肉をわけた。毛皮は両親への贈り物じゃ。
どこでなにをしておったのか聞かれたので見聞を広げるために諸国を旅しておったと答える。
伊賀の忍者たちは傭兵として諸国の大名に雇われて仕事をこなすので、諸国の土産話を聞かせてもらった。それを自分の体験のように話しただけじゃ。
一晩ぐっすりと眠ったわしは朝飯を食べたあと、桶を持たせたタマとともに城下町に向かう。
忍者の身体能力を活かして銭を大量に稼ぐのじゃ。
城下町に続く橋の上で風呂敷を広げる。中から取り出しのは木材を加工して作った輪っかのたばといくつかの木製の玉じゃ。
「ボール好き♩」
タマは笑顔で玉を手にとる。ええ名じゃ。わしも今後はボールと呼ぼう。
わしは橋の欄干を歩きながらボールを天に投げた。
それを次から次に両手で受け止めて空に放り投げる。
「おっ、ジャグリングだね。うまいうまい♩」
タマはパチパチと手を叩く。未来の言葉ではそういうらしい。わしは欄干を綱渡りしながらジャグリングして見せた。橋を渡る人々が足を止めて注目する。
この時代にはない余興じゃ。めずらしいじゃろう。
タマは手を組みしっぽを振って道ゆく人に猫なで声でおねだりする。
「もし楽しんでいただけたなら、この桶にいくらかご褒美をくださいな」
中年の侍がさげすんだ笑みをこぼす。
「なんじゃ河原乞食か。ほうら、おひねりじゃ」
侍はピンっと銭を投げる。
「わ〜い♩お侍さん大好き〜♩」
タマは笑顔満面じゃ。わしはボールの次は輪っかでジャグリングして見せた。人々から驚嘆の声があがる。1時間もせぬうちに橋は人で埋めつくされ桶は満杯になった。
「今日はこれまでじゃ。明日も朝からやりますのでよかったら足をお運びください。大量のおひねり大変ありがたく存じ上げます」
「かたじけない」
わしとタマはそろって頭を下げる。人々に拍手で見送られた。人を殺して銭を得るよりよっぽど気持ちええ。わしは城下町の両替商で小銭を金に両替してタマと焼きダンゴを食べた。
タマには風車とかんざしも買ってやる。よく手伝ってくれたのでご褒美じゃ。
わしらは軽い足取りで帰宅した。




