婚活は戦場と聞いていたけど、思ってたのと違った
思い付き短編です。
脳が叫びたがっているんだ。
何に対して?
それは私にもわかりません。
そんなんでも楽しんでもらえたら幸いです。
もうすぐ三十で、そろそろ結婚したいと思っていた。
しかし出会いはないし、そもそもKIRIN。
そんな僕が結婚なんて無理だよな、とも思っていた。
そんな折、親から勧められたのが結婚相談所。
プロが一年を通して結婚へのサポートをしてくれるらしい。
それなら僕も結婚できるかも……?
しかし窓口に行ってみて、年会費三十万越えという金額に驚いた。
しかもうまくいった暁には、追加で成婚報酬……?
ニコニコ顔の受付嬢さんに何とか断る口実を考えていると、『合宿』『一週間』『五千円ポッキリ』と書かれたチラシが目に入った。
よく読まず「これにします」と言ったのが、地獄の始まりだったわけで……。
「おいそこの!」
「はっ、はい!」
「声が小さい! それでも男か! 腹から声出せ!」
「はい!」
「違う! 返事は『サー! イエッサー!』だ!」
「さ、サー! イエッサー!」
……何だよここ……。
映画の中の軍隊か……?
一週間で婚活のイロハを叩き込むって書いてあったけど、こんな高圧的とは……。
「おい貴様!」
「はいっ!」
「違う!」
「あっ、サー! イエッサー!」
「貴様はここに何しに来た!」
「さ、サー! イエッサー! こ、婚活です!」
「そんなたるんだ身体! 攻撃力皆無の髪型! 防御のかけらもない服装! 貴様戦場を舐めているのか!」
「せ、戦場!?」
「婚活は戦争だ! 戦う力を持たない者は、金と時間と自尊心を奪われるだけだ! わかるか!?」
「さ、サー! イエッサー!」
そ、それでこの軍隊風か……。
でも髪型の攻撃力って何だ……?
「次! 貴様はここに何をしに来た!」
「サー! イエッサー! 婚活です!」
くそぅ、お隣さんは僕の失敗を見てるから、『サー! イエッサー!』で元気に挨拶してる……。
僕だって先にそうだと知っていたら、あんなに怒られなかったのに……。
「では聞こう! 婚活とは何だ!」
「えっ……、ゆ、ゆくゆくは結婚するのための出会いの場、というか……」
「甘ったれた事をぬかすな!」
「ひいっ!」
あぁ、結局怒られるんだ……。
でも何が駄目なんだろう……。
「そんな微温い出会いが欲しければマッチングアプリでも使え! しかし貴様はそれでは結婚どころか恋愛にも至らなかった軟弱者だろう!」
「え、あ、はい……」
「返事が違う!」
「さ、サー! イエッサー! 軟弱者であります!」
「そんな貴様に必要なのは覚悟だ! 結婚の可能性に四六時中目を凝らし、相手の心が開いた瞬間に飛び込む覚悟だ!」
「え、で、でもそんな飢えた感じ出すのはちょっ」
「馬鹿野郎!」
「ひいっ!」
僕に言われてるわけじゃないのに、ビクッとする……。
「今貴様は飢えている! 女が欲しい! 結婚したい! 家庭が欲しい! だからここに来た! 違うか!?」
「さ、サー! イエッサー! 違いません!」
「今より飢えれば判断は更に鈍る! 四十五十になって結婚したいと言ったら、相手は相応の歳になる! 考えろ! 餓死寸前で瑞々しい獲物が獲れるか!?」
「サー! イエッサー! 獲れません!」
「それでも良いなら構わん! だが子どもを望み、その子どもが成人になるまで安定して働ける環境をと思ったら、今は早いか! 遅いか!」
「さ、サー! イエッサー! お、遅いです!」
「『子どもが欲しい』など絶対譲れない条件を定め、クリアしていれば突撃だ! 『もっと良い人がいるかも』などという妄想は豚にでも食わせてしまえ!」
「サー! イエッサー!」
わぁ、メチャクチャだ……。
でも婚活って場面だと正論なのかも……?
「次! 貴様は何をしにここに来た!」
「サー! イエッサー! 婚活です!」
「婚活とは何だ!」
「サー! イエッサー! 結婚し、家庭を築くための戦場です!」
ずるいなぁ……。
僕とお隣さんの失敗を見て、怒られないようにってあんな風に……。
「では聞こう! 貴様はどんな家庭像を描いている!」
「え……、ぼ、わ、私が長男なので、ゆくゆくは両親と同居をした」
「死にたいのか貴様!」
「えぇっ!?」
あー、今のは確かにダメっぽい……。
「両親との同居を望む事自体は悪い事ではない! だが! 婚活という戦場で自らの弱点を晒すなど、裸で富士登山を敢行するが如き愚行!」
「サー! イエッサー! すみません!」
「結婚とは両性の合意のみに基づいて成立する! 貴様の家族を相手も家族と考えてくれるかは、結婚後の貴様の努力だ! 婚活ではお首にも出すな!」
「サー! イエッサー! すみません!」
「相手には勿論、両親にも明確に『同居は考えていない』と言え! 『嫁と両親の相性が良い』というコインを得た上での、分の悪いギャンブルだと心得ろ!」
「サー! イエッサー!」
うちも長男だから肝に銘じておこう……。
「次!」
「サー! イエッサー!」
こうして鬼教官の叱責で、僕の婚活は幕を開けたのだった……。
……婚活だよな、これ……?
読了ありがとうございます。
この後走りながら「かーちゃんのはなしはナイショだぞー!」と叫びながら走らされたり、プロに髪型をセットしてもらった後、「一度髪を洗い、同じ髪型に戻せ! 最終目標は目を瞑った状態で十分以内だ!」と言われたり、「僕……、この合宿が終わったら……、故郷に帰って、幼馴染に告白するんだ……」と死亡フラグを立てる参加者に、教官が取り上げていた携帯を突きつけ公開告白をさせたり、そんなドラマが想像できますね(暗黒微笑)。
お楽しみいただけたなら幸いです。




