八十五、砦の記録
応接間を後にしたキサラとナツヒは、屋敷内のとある場所に向かっていた。
ナツヒが「話したいことがある」と連れてきた場所。
「書庫……」
「ああ」
古びた扉にはそう書かれていた。
ナツヒは同じく古びた鍵でその扉を開ける。
書庫の中は、大学校の図書館と同じ匂いがした。
しかし、ちゃんと手入れはされているようで、ほこりっぽい匂いはない。
「こっちだ」
本棚の間に机があり、そこに一つの本が置かれていた。
「紅家の記録、特にこれは砦関係の記録が残されている」
「砦……」
キサラははっとしてナツヒを見上げた。
ナツヒはためらいながら、キサラに問う。
「キサラの祖父母と父親は、国境の守りで命を落とした。となると砦での警護のはずだし、キサラはマサと一緒に砦を見に行っていた。だから、記録があるんじゃないかと思った」
「ナツヒ様……」
「見たくないなら、見なくていい。だけど、キサラは知りたいかもしれないと思って、準備はしてある」
机に置かれている本には、しおりが挟んである。
きっと調べてくれたのだ。
キサラの元にはあの訃報の一枚しかない。
砦に行ったのも、少しでも人間と妖怪で結ばれた祖父母を知りたいと思ったから。
「知りたい、です」
「わかった」
ナツヒとともに本に近づく。
表紙は、確かにキサラの祖父母と父がいなくなった時期の年代が記載されていた。
「大丈夫だ、そばにいる」
背中にナツヒの体温を感じる。
腰に回された腕は力強く、キサラよりも暖かい。
それは、根拠のない安心感をキサラに与えた。
まるで祖母の尻尾のように。




