八十四、角ありたちの悪巧み
「ところで」
思い出したようにカゲツが手をたたく。
「ナツヒの元許嫁はどうするかな」
「ああ。今紅家所属の鬼の中で一番強い妖力をもつ、彼女ですね」
ナツヒはわざとらしく、答える。
キサラがちらり、とエンを見るが、無表情のままだ。
しかし、その無表情はわざと無表情を保っているように見える。
「さぁどうするか。彼女には申し訳ないことをした。紅家に仕えるつもりでいろいろ考えていたようだし……」
「父上、私にいい考えがあります」
ナツヒがさも今思いついたように明るい声で言った。
その視線がエンに向かう。
「私が知る限り、その彼女と同じぐらい紅家として護国の努めを真面目に考えているのは、兄上だと思うのです。そして、兄上も十分紅家の中では強い妖力を持つ方です。私からみると、お似合いの二人だと思うのですが」
「え、な、ナツヒ⁈」
「ああ、いい考えだ。そういえば、エン。お前には特に見初めているものはいなかったな?」
「えっと、いませんけど?」
「決まりだな」
キサラはエンと話をしたのは、紅家を去るあの一瞬だけ。
それに取り乱すことはなかった。
しかし、今は慌てふためいている。
「…ご冗談でしょう?」
「ナツヒはこのとおり強情だし、キサラさんに惚れ込んでしまっている。それをキサラさんも受けいれてしまっている以上、二人の気持ちを無下にはできない。だが、エンとともになら、きっと彼女もナツヒたちを支えてくれるだろ?」
「あ……」
「俺も、エン兄なら力になってくれると思うし、彼女の力も借りれるから、頼もしいと思う」
「よ、よろこんで、は、拝命します……」
そう言って頭を下げたエン。
黒い髪の間から顔を出している耳はほんのり赤い。
キサラにしかわからない程度の小さな音で、ナツヒは笑った。
「そうだ、エン。こういうことは早めに伝えたほうがいいだろう。相手方に早めに伝えていってはどうか?」
カゲツの目は完全に笑っていた。
楽しくてしょうがない、という顔だ。
そんなカゲツとナツヒに気付いていないのか、エンははっと顔を上げる。
「は、早めに伝えたほうが、いいですか、ね?」
「ああ、今から行ってくるといい」
「わかりました……!」
「失礼します」と足早に応接間を出て行くエン。
その気配が去ったあと、ナツヒとカゲツが笑う。
「うまくいったなぁ!ナツヒ!」
「父上、お上手でした!」
「いやぁ、あの顔、あの妖気!お前わかったか⁈」
「もちろんですよ」
そう言って笑う二人を、冷たい目でリンが見ている。
どんな顔をしていいかわからないキサラはリンと目が会う。
「はぁ、まぁエンが元気になったようでよかったです。キサラさん。うちの夫とナツヒはこういう二人なんですよ」
「そ、そうなんですね……」
二人はひとしきり笑っていた。




