八十三、「ようこそ、紅家へ」
「さて……」
カゲツは表情を崩さずに、ナツヒに目を向けた。
「ナツヒ、キサラさんはこう言っているが。お前はなぜキサラさんを選ぶ?紅の角を持つ者として、キサラさんが紅家にとって利ある結婚だといえる?」
キサラはナツヒをちらりと見た。
キサラが人間であり、その人間と結婚することは、建国の歴史から問題はない。
しかし、利益はあるのか。
なぜ、他の人間ではなくキサラなのか。
キサラがこの紅家で果たさないといけない役目。
後継者以外の役目が必要だ。
「父上なら、俺の妖力の強さを実感しているでしょう」
ナツヒは表情を変えず、淡々と言葉を紡ぐ。
その目線は、カゲツの瞳、そしてナツヒよりも力強い角に向かう。
「今、この紅家で一番妖力が強いのは俺です。おそらくどの鬼も俺にはかなわない。そんな自分が怖いのは自分自身なんですよ、父上。もし俺が暴走したら、誰が止めれますか?妖力が強い分、感情も大きくなりがちです。そんな俺が間違った方向に行ったとき、どの鬼も俺を止めることはできない。でも、キサラは違います」
ナツヒの手がキサラの手をつかんだ。
ぎゅっ、と手に力が込められる。
赤い瞳がキサラの琥珀の瞳を見て笑う。
「俺はキサラの目だけには勝てないんですよ。キサラに妖力がなくても、キサラの目は、いつでも俺自身を思い出させてくれる。いつだってきれいだと思う。俺はキサラの目に惚れたんです。その目には逆らえない。たとえ、間違った道に行っても、キサラの存在とその目が俺をとどめてくれる。俺が、私が正しい紅家の当主になるには、キサラが必要なんです」
「ナツヒ様……」
知らなかった。
ナツヒが、そんな風にキサラを思っていたとは。
キサラのいる意味が、ここにあるなんて。
「…いい答えだ」
カゲツの言葉にはっとする。
カゲツに目を戻すと、微笑みは変わらない。
「同じ角ありとして、共感する部分もある。ナツヒとキサラの結婚を私は認めようと思う」
「さて」とカゲツは隣にいるリンとエンに目を向けた。
「君たちはどうかな?」
「父上に反論はありません」
エンがすぐにそう言う。
リンは苦虫をかみつぶしたような顔をしていたが、もうキサラを睨んではこなかった。
「ナツヒの言うことは、私達角なしにはわからない。でも、同じ角ありのあなたが言うのであれば、私には口出しはできません」
「決定だ」
カゲツはキサラに目線を戻す。
「キサラさん。ようこそ紅家へ。一緒に護国の任務を全うしましょう」
キサラとナツヒは、二人で頭を下げた。
婚姻が、決まった。




