八、治療の効果
次の日、ナツヒの部屋を開けたキサラは、はたと気付く。
昨日と空気が変わっている。
昨日よりも乾燥した空気は、部屋の植物が効果を発揮しているのだと思う。
「おはようございます」
「おはよう」
ナツヒは昨日と同様に、寝台の上に座っていた。
毛布は膝掛け程度で、扉を開けたキサラの方を振り返る。
「お体の調子はどうでしょう」
「ああ。すこぶる良い」
その通りで、声にもはりがでて、赤い瞳は深みが増している。
キサラに向ける微笑みを見ないように、診察を始めようとした。
「カーテンを開けてほしい」
「……はい?」
いつも通り、暗い室内で診察しようとしていたキサラは動きを止める。
ナツヒをみるが、表情はこわばっているわけでもなく、無理をしているわけでもない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思う」
「…無理なら言ってください」
キサラは窓に近づき、寝台から一番遠いところのカーテンから引いていく。
三箇所あるカーテンを順番にひき、最後に日の光が磨りガラス越しにナツヒを照らす。
「……」
ナツヒは一瞬、日の光に目を細めるが、声を上げることなく、ゆっくりと目を開いていく。
「大丈夫だ…」
「無理はしていませんか?」
「ああ。薬がよく効いたんだ。それにこの植物も」
昨日の昼頃においた植物たちは、キサラが指示した通りの場所にかわらず置いてあった。
場所を移動した形跡も、燃やされた形跡もない。
「君が来る前のことを考えたら、信じられないほど、調子がいい」
日の光に照らされた黒髪はつややかで、どこまでも漆黒だ。
その合間に顔を出す赤い角は、存在感を放つ。
「それに」
ナツヒの赤い瞳は、日の光に劣らない強い光を抱え、キサラを射貫く。
「やっと君の顔を明るいところで見ることができた。俺は幸せだ」
日の光でみる、鬼の微笑みは、キサラでなければ、男女問わず虜にしただろう。