七十八、紅家の未来
「さぁ、他の問題はなんだ?一つずつ解決していこう」
意気揚々とナツヒがそういう。
キサラの動悸が早くなる。
ナツヒの覚悟は予想していたとはいえ、キサラに衝撃を与えた。
キサラも覚悟を決める。
「国の成り立ちがそうだとしても、人間と結ばれた妖怪、妖怪と結ばれた人間の扱いは冷たいものです。それは私がよく知ってます。それに、ナツヒ様は紅家当主になる角あり。後継ぎの問題は避けられないでしょう」
通常、強い妖力を持つものの子孫が強い力を持つ。
妖怪の世界では、力の程度でその上下が決まる。
妖怪が人間との結婚を区別するのはそのせいだ。
人間と結婚すれば次の世代の力が弱まる。
キサラのように。
「紅家の力が弱まるのは、問題ではないでしょうか」
「その問題な」
予想していたのだろう。
ナツヒの表情が変わることはなかった。
「まずキサラ。君は妖怪と人間の結婚で、嫌な思いをしてきたし、犠牲になってきた。それは、人間にも妖怪にも偏見があるから。それに、妖怪と人間の結婚が知られていないことも影響している。でも、これ以上キサラにつらい思いをしてほしいわけではないし、このままキサラが思い出に苦しめられるのも嫌だ」
祖父母の結婚。
キサラは生まれていなくて見ていないが、最初は幸せだったのだと思う。
でも、キサラに残っているのは暗い思い出だけ。
何故優しい祖父母が砦に送られないといけないのか。
「俺は、絶対にキサラを守る。妖怪と人間の結婚が、苦しいことばかり生み出してはいけない」
「……」
祖父母も最初はこんな気持ちだったのだろうか。
二人で困難を乗り越えたいと思った関係だったのだろうか。
「それに、次の世代がそんな思いをするなら、巻き込まなくてもいい」
「……それって」
「後継者は考えなくてもいいってことだ」
「だ、大丈夫なんですか?」
個室とはいえ。
次期当主が言って良い言葉ではない気がする。
しかし、ナツヒの笑顔は爽やかだ。
「さっきも言ったように、杏家の祖先は人間と結婚しても、まだ一族は保っている」
「……人間と結婚しても、その後継者から角ありが生まれると?」
「そういうこと」
ナツヒは心なしか楽しそうだ。
「さっきは俺以上に妖力が強い鬼はいないと言ったけど、実はエン兄だって強いんだぞ。本人は自覚していないけど、あと少し妖力が強かったら角ありのはず。だから、エン兄が強い妖力の鬼と結婚すれば、その子どもは確実に角ありになるはずだ」
「でも、それはエン様に強要することになるのでは……」
「俺と父上は気づいている」
ナツヒがウキウキしながら、キサラに顔を近づかせた。
「元々父上が俺の許嫁として最初に選んだ鬼はエン兄の初恋なんだ。しかも、少なからず向こうもそう思っている」
「そ、その根拠は……?」
「俺が病気になった瞬間にこれ幸いと婚約を破棄した。勢いのままにな。その後、エン兄と時々しゃべっているのを目撃されている」
「つ、つまり、ナツヒ様は、エン様はその方と結婚するのでは、とそういうことですか……?」
「ああ!むしろ結婚したほうがいいと思ってる!」
ふと、キサラはエンとの会話を思い出した。
『ナツヒの気持ちをまっすぐ伝えることも、私にとってはうらやましい』
伝えることができなかった、エンの気持ちがあり、それにナツヒも気づいている。
「そして、二人が結婚すれば、確実に角ありが生まれる!俺の子どもより、あのエン兄の子どもの方がよっぽどまともに育つだろうさ」
さあ次の問題は何だ、とナツヒが促した。




