七十三、マサの思い
砦という、妖怪だらけのところで。
父は、祖父は。
「あの、質問なんですが……」
階段を降りながら、キサラはマサに訊ねた。
「もし、砦の警備に人間が行ったらどうなると思いますか?」
「……」
返事がない。
振り返ってみたマサの表情は冷たく据わっていた。
その瞳には絶望しかない。
「もたないと思うよ。もし、外の妖怪が近くにいるならなおさら。体調不良どころの話じゃない。寝込むだろう。たとえ君でも」
ちらり、とマサの目がキサラが持つ煎じ薬にいく。
「煎じ薬だけでどうこうなる問題の妖気じゃない」
「そう……ですよね」
だったら、完全に人間だった祖父はどうなったのだろうか。
考えただけでも、恐ろしい気持ちがした。
「大丈夫。ナツヒは絶対、キサラを送りこむようなことはしないさ」
ぱっと笑みになってマサはそう言うが、キサラは苦笑した。
「ナツヒ様のことを考えているわけではないですよ?」
「え?そうなの?」
「でも」とマサは続けた。
「ナツヒも僕と同じ仕事をしていたよ。今は体調もよくなってきているから、そろそろ、砦での仕事が始まるんじゃないかなぁ」
「……そうですか」
「僕らの仕事を知っててくれるのは、友人としてもありがたいと思うよ」
その意味がわからなくて首をかしげるキサラに、マサが肩をすくめた。
「ナツヒはキサラに必要以上には言わないだろ?基本的には他人と喋ろうとしない性格だし。あ、僕とは喋るけどね!」
片目をつぶって笑うマサは、纏う雰囲気がいつもと少し違う。
「僕は、ナツヒのそばにキサラがいてくれてること、本当は助かってるんだよ。どう頑張ったって、僕たちは南領と北領の関係性だから」
「私は……」
その先の言葉はなぜか思いつかなかった。
キサラはナツヒとどういう関係になりたいのか、このまま食事の関係なのか。
脳裏をかすめる、人間と妖怪が結婚した結果である自分。
砦で戦うナツヒとマサ。
砦で死んだ、人間であった祖父。
残された母と自分。
「私は……まだわからないんです」
「そっか」
マサは、それ以上言葉を急かすことをしなかった。
それがありがたかった。
考える時間はあるんだよ、と言われたみたいで。




