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七十一、ナツヒとマサの情報交換の結果

「……キサラ、大丈夫か?」

「あ…すいません、ぼうとしていました」

「今日は、疲れているのか?」


いつもの食事にいつもの場所。

呼びかけられて、目にするのは赤い目。


「いえ、大丈夫ですよ、ナツヒ様」


ナツヒとの週一回の食事はなぜか続いていた。

なんならナツヒが大学校の研究室で待つ風景も、日常になりつつあった。

テツに至っては、ナツヒで一週間の曜日を()(あく)しているらしい。


「疲れているのなら、沼まで送ろう」

「いえ、大丈夫ですよ」

「けど…」

「ちょっと…思い出していただけです」


手元にあるのは、きな粉がかかったわらび(もち)

きな粉がわらび餅から飛び散って、黄色い線を描いている。

部屋の照明で輝く金色で、ふと思い出したのだ。

祖母の背中で揺れる尻尾。

その尻尾で背中をなでられた感覚。

忘れるはずがないと思っていたのに、いつの間にか思い出すことが少なくなっていたのだと気付く。


「……ナツヒ様、一つ聞きたいのですが」

「どうした?なんでも答えるぞ」


ナツヒは食事中、よくキサラのことを聞いてくる。

好きな色、好きな音、好きな時間。

だから、キサラ側から何かを聞くことはなかった。

何が嬉しいのか、ニコニコとキサラを見てくる。


「南領には、いくつの砦があるんですか?」

「主なものは一つ。その他、南西と南東がある」

「その……ここ最近でその砦が危なくなったことはあるんですか?」

「砦の()()か?」


ナツヒが手を止めて、斜め上を見る。


「大きなものは俺の記憶ではない…というかあったら、国の危機だな。小さな危機はあるだろうが、その程度なら一年に一回は起きている」

「そう…ですか」


祖父母と父が消えた砦は南西だったはずだ。

”南西の砦”は南領を治める紅家と西領を治める月家が分担している。

それを示すように、訃報の消印には赤色と灰色が使われていた。


「君の祖父母の話か?」

「え、はい…」

「気になるのか?」


キサラをみるナツヒの表情から、感情を読み取ることはできなかった。

心配しているわけでも、好奇にまみれたものでもない。

こういうときに、妖気が感じることができれば、感情がわかるのだろうか。


「…俺のほうでも調べてみよう」

「あ、いえ、忘れてください。大丈夫です、過去の、話ですから」

「俺が、知っておきたい」


そう言うナツヒの言葉は力強い。

言われてみればそうかもしれない。

これから、砦を守る護国に関わっていくもの。


「それに、マサから聞いた」

「な、何をですか?」

「今度、砦を見に行くらしいな」

「えーと…」


なぜマサは全てナツヒに伝えるのか。

キサラの頬が引きつる。


「マサはキサラを連れていく、と許可を求めてきたから、許した。マサのそばを離れないように気をつけろ」

「えっと?あの?」

「マサはキサラが最近楽しそうに沼地で働いていると聞いている」

「なぜ全部(つつ)()けなんですか?」

「俺が聞いているから」


にこり、とナツヒが笑う。

その後ろにマサが見えるのは気のせいだろうか。


「俺は君との結婚を諦めたわけじゃない。婚約は断り続けているし、今だって君を連れて帰れるか、ずっと機会をうかがっているんだよ」


ただ食事をするだけ。

その時間が当たり前になって、油断するようになって、すっかり忘れていた。


「俺と結婚はしてくれないか?」

「……冗談はよしてください」

「そうか。まだみたいだ」


なら、なぜこうやってまだ食事に付き合っているのだろうか。

キサラは、(のど)の奥が気持ち悪くなるのを飲み込んだ。

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