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七十、幼いキサラの思い出

幼い頃。

キサラの周りに人は少なかった。

本家に追いやられ、(しん)(せき)にも追いやられた家で生まれた。

祖父と祖母、そして父親はとても仲がよかった。

特に祖父は優しくしてくれた思い出がある。

父親は祖母に似ていて、金色の()()みを持っていたが、その娘であるキサラには毛並みはなかった。

物心がつくかつかないかの頃。

夜遅くに起きたときに、祖父と父親が暗い部屋でキサラの話をしているのを見た。


「……それでもキサラは母さんの血を受け継いでるだろ」

「お前はどう思うんだ?あいつは、キサラの妖力はほとんどないと言ってた」

「そう思う。反応が違う」

「キサラは人間の要素の方が強いか?」

「母親似だと思うよ」


妖狐と人間。

その違いがどれほど大きいものか、そのときのキサラにはわかっていなかった。

祖母が祖父と結婚するときに、本家から(えん)を切られ、北領に追いやられたことも知らなかった。


「キサラ」


そして、その結果がどうなるかも、わかっていなかった。

キサラが成長して家の仕事を手伝うようになったある日。

父親と祖母に呼び出された。

部屋に入ると、祖母もいた。

祖母はそのきれいな黄金の(しっ)()を大きく振っている。

夕方の西日が差し込み、尻尾を照らす。

キラキラと光る金色は一生忘れられない光景になった。


「キサラ。あなたが、普通の人たちと違うことは、なんとなく察しているね」

「……うん」


普通、家の中に人間と妖怪が一緒に住むことはない。

キサラの家は、普通と違う。


「キサラには、人間の血と、妖怪の血が混じってるんだよね」

「そうだ。父さんと一緒だ」

「うん」

「妖怪の血はおばあさん(ゆず)りだ」

「うん」

「キサラ」


祖母の瞳も尻尾と同様に深い金色に光っていた。


「あなたには迷惑をかけます」

「なんで?」

「私がおじいさんを愛してしまったから」

「でも、おばあちゃんはおじいちゃんがだいすきなんだよね?」

「もちろんです」


閉じた瞳から静かに涙がこぼれた。

夕日に光り、毛並みと同じ黄金に輝く。


「明日、おじいさんと私、そしてあなたのお父さんは、この家を出て行くことになりました」

「私たちもキサラと一緒にいたいんだ。でも、この国を、守る、ために、いかないと、いけない」


後から思い出すと、父親の声は震えていた。

でも、それがどういう意味か、(おさな)いキサラにはわかっていなかった。


「いつか、戻ってくるの……?」

「いや……」


なんとなく、キサラにはわかっていた。

多分、帰ってこない。


「帰ってくることは、多分できない。母さんを、キサラに任せることになる」

「……わかった」


なんでそんな返事をしてしまったのか。

後悔は大人になってからする。

でも、体が弱くて、よく病気で()せっている母親をみるのが、自分の仕事なのだと、(みょう)な使命感を持っていた。


「父さん達は頑張ってくるから」

「うん!キサラもがんばる!」


祖母に抱きしめられる。

尻尾で背中をなでられて、それが気持ちがいい。

その後、父親もキサラを抱きしめてくれる。

父親の尻尾は短いからできないけど、その毛並みは大好きな父親のものだ。


「キサラに一つだけ、言っておきたいことがあるんだ」

「なぁに?」


腕の中で、父親がキサラにだけ聞こえるように言った。


「自分に妖怪と人間の血が混じっていることは、誰にも言ってはいけないよ」

「キサラ、守ってるよ?」

「これからもだ」


腕が強くなる。


「キサラ、忘れてはいけない。君は妖怪じゃない。君は人間だ」

「わかった」

「人間として、生きるんだよ」

「うん」


そう言ってキサラの頭をなでてくれた父親の手は、大きくて暖かい。

次の日の朝、目が覚めると祖父母と父親はもう家にはいなくなっていた。

その一ヶ月後には母親が伏せ、一年後にはキサラはひとりぼっちになってしまった。


「……ああ」


中央領の孤児院にいくため、家で見つけたのは、父と祖父母の()(ほう)

南西の(とりで)で戦死したと。


―――「人間として、生きるんだよ」


父親が伝えたかった意味に気付いたのは、そのときだった。

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