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六十六、これから

妖狐の本家の話は、思いのほかキサラの気持ちを軽くした。

自分の中で、(せん)(ざい)(てき)に意識していたのだと気付いた。


「あと、これは父上から」

「はい」


ナツヒの言葉で緊張感が戻る。

紅家の当主からは予想していなかった。


「妖狐の本家がある南領では、キサラの妖力が強くなるらしい。俺は、病気のこともあってあまり気付いていなかった」

「……ということは」

「父上がキサラをうちから追い出したのは、キサラがこれ以上妖狐の力が強くならないようにする目的もあった。俺に最初に言ってくれればいいのに……」


キサラはその裏に藤の存在を(かい)()()た。

あの場ではなく、そのままナツヒに言ってしまえば、キサラの考えがわからないと思ったのだろう。

キサラが妖怪として生きることを選択すれば、また違う結論になったかもしれない。

だが、そうならなかった。

キサラは人間であって、妖怪にはなることはできない。

今もその決断に変わりない。


「カゲツ様と藤様にお礼を伝えておいてください」

「俺には⁈」

「先ほど言いました」

「……まぁ、これから何度でも聞くからいいか」


ナツヒの言葉が聞き捨てならず、キサラは眉を寄せた。


「何度でも?」

「ああ」


ひょうひょうとそんなことを言われる。

まだ機会があるのか?

確かに、マサと会うこともあるかもしれない。


「今日から、毎週、ここで食事な」

「はぁ?」

「くくく」


キサラが()(つくろ)うことなく反応すると、なぜかナツヒは笑う。


「キサラのその素の反応がいいなぁ。ちょっとだけ妖気が漏れるのもいい」

「はぁ?漏れてるんですか?」

「怒る、焦る、不満がある。そういうときにちょっと」

「何のための琥珀ですか」

「琥珀じゃ(おさ)えられないぐらいでるんだろうな」


くくく、とナツヒは笑っている。

きっとこういうときにも、ナツヒから妖気はでているのだろうが、キサラにはわからない。


「キサラを南領に連れてくるのが難しければ、中央領で会うのが手っ取り早い。それに、俺の代わりにエン兄がしていた中央領の仕事が戻ってきてるから、中央領に来る機会も増える」

「……そう、ですか」


エン兄。

ナツヒの兄で、角なし。

しかし、キサラが紅家から去るときに彼は言った。


―――あなたとナツヒを応援しています。


「……確信犯か」


キサラのつぶやきはナツヒの耳に届いたはずだが、よく分からなかったのだろう、何も言ってこなかった。

エンは確かにカゲツの息子だ、とキサラは一人思うのだった。

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