六十五、妖狐の本家
「では、情報をどうぞ」
「ああ」
食事を口にしながら話を進める。
前とは違う店だが、ここも高そうだ。
しかし、前とは違い、食事はおいしく感じられた。
ナツヒと二人でいる、という状況に慣れてきたからだろうか。
「妖狐の一族のことだ」
ドキリ、とキサラの手が一瞬止まった。
今日の杏家との話し合いでやはりでてきたのだろうか。
だが、キサラとヤスロウの関わりは悪くない。
彼は今も薬を取りに沼地を行き来している。
論文が出されたあとも、アキやマサと時々やりとりしていて、通りすがりだから、と引き続き飛脚をしてくれている。
マサも目をつぶってくれているらしい。
「まず、妖狐の本家がうち、南領にあることは知ってたか?」
「いいえ?」
「…本当に妖狐とは関係がなかったんだな」
妖狐は国全体に配置されていて、本家は中央領にあると思っていた。
ヤスロウのいる泉狐家以外と関わったことはない。
「今、一番力を持つ妖狐の一族は、狐火家。南領にある」
「そうだったんですね」
「興味なさそうだな」
「そうでもないですよ」
興味なさそうに見せているだけだ。
少し興味はあるが、あまり関わりたくない、というのが本音。
「まあいいや。一応な、早めに火種は消しておこうっていうことなんだろうな。父上は妖狐の本家、現当主と話をしてきた」
「……ご迷惑をおかけしています」
「俺がヤスロウと関わった件もある。俺も同行した」
知らぬところで、話が広がっている。
キサラの話題がでないはずがない。
正直、本家にどう思われるのか、予想ができない。
そもそも、キサラの存在は本家が知らない可能性だってある。
「まず。妖狐本家の狐火家は、妖狐の血が混じる存在として、キサラのことは以前から認識していた」
「あ、そうなんですか」
「そう。そして、興味がない」
興味がない。
ナツヒの言い方は、妖怪の根源である、感情的に興味がない、ということ。
「妖狐として、キサラは人間の要素が強くて、本人が人間として生きていくのであれば、今後は妖狐は関わらない。引き続き、紅家や墨家と同じく、ただの人間として扱うだけ、になった」
妖怪の中では、何の血を強く引いているか、どの妖怪の力が強いかで、所属がきまってくる。
人間なら、妖怪の所属ではなく、人間の論理で決まる。
「だから、キサラは、キサラが協力したい、働きたい、生きたいと思うところで生きればいいと思う」
「……わかりました」
その言葉は、予想よりもすとん、と心に落ちた。
妖狐の血が入っている以上、妖狐がどんな風に動いてくるか、わからなかった。
ばれないように、人間として生きてきた。
それが正式に、見解として出された。
「今はその琥珀の効果もあって、ほとんどわからない。妖狐にも伝えてある」
「……ありがとうございます」
琥珀の首飾りは、今もキサラの服の下で揺れている。
これでキサラが妖狐の力を無意識に使うことはない。




