六十四、食事の目的
手紙に書かれた場所に向かう。
前回とは違う店の個室。
キサラが入ると、すでにナツヒはいた。
「やぁ、キサラ、待ってたよ」
笑顔で迎えるナツヒ。
いつもの軽装ではなく、家紋が入った袴を着ている。
「……なんでこんなところにいるんですか」
抵抗することも面倒になったキサラは、静かに椅子に座った。
それと同時に用意されていた食事が運ばれ始める。
「父上との仕事で、中央領の杏家にきた。例の『ミズタマリ』の件」
「……何か聞かれたんですか?」
キサラは自分の話題がでたのでは、と恐ろしくなった。
これ以上鬼と関わりをもちたいと思わない。
「いろいろ。俺は状況説明だけ。ちなみに、墨家も一緒で、アキもいた」
「なるほど」
であれば、キサラの出生まで話が広がることはないだろう。
だが、それならなぜ今ここにいるのだろうか。
「杏家との食事会とかはないんですか?」
「食事会は昨日いった」
「というか、私と食事に行ったとばれたらまずいのでは?」
そもそも、キサラは紅家から追い出されたようなもの。
当主のカゲツも、ナツヒの母親も、キサラがナツヒと仲良くするのは快く思わないだろう。
「問題ない。父上にはキサラと食事に行くことは伝えてある」
「はい?」
キサラの脳裏にカゲツの不敵な笑みが浮かぶ。
あの当主が何を考えているかは、キサラにはわからなかった。
「は、反対されなかったんですか?」
「ああ。父上は君を嫌っているわけじゃないからな」
よくわからない。
他にキサラを利用したい何かがあるのだろうか。
「どちらかというと、気に入っているまであるかもしれない。そこまで俺も父上のことがわかっているわけじゃないけど」
キサラははっと気付く。
カゲツはキサラに個人的には何も思っていないのだろう。
だから、ナツヒがキサラと会うことに嫌な気持ちがない、それだけなのだろう。
その先を考えて、止めようとするのは、人間の思考回路。
問題があれば、きっとカゲツの秘書である藤が止めるのかもしれない。
「それに、父上としては俺がキサラに会うことで、一つ役割もある」
「なんでしょう」
「情報提供」
「それなら、手紙や人間同士でもいいですが?」
「だれでもいいなら、俺でもいいだろ。俺がキサラに会いたい。そのついでに情報提供をしよう」
どちらが”ついで”かわからないが、キサラはそれ以上聞くのをやめた。
話が脱線してしまう。
「では、情報をどうぞ」




