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六十三、夜の予定

「お。お疲れー」

「お疲れさま」


大学校。

学生の実習から戻ってきたキサラに、テツがそう声をかける。


「大先生様にまたいろいろ届いてるぞー」

「大先生になった気はないけど?」


確かに、キサラの書類箱には今までにない量の手紙が届いている。


「あの論文が出てから引っ張りだこだなぁ~さっきも秘書が探してた」

「そ」

「教授は、お前が鬼科に移るんじゃないかって心配してた」

「移らない。ここが居心地いい」

「だよなーわかる」


テツは苦笑する。

テツとキサラでは少し事情が違う。

『古代医学』に興味があったのは事実だが。

キサラの出生が世に知れてしまったとき、ここ以外の()(しょ)では問題が大きくなる可能性があった。

ここだからこそ人間として働くことができている。


「『ミズタマリ』『ミズタマリ病』…原因は墨家にある『古井戸』で特定…墨家は(ひと)(もう)けしたな」

「まぁ、すべては墨マサ様の思い通りってね」

「あとは、紅家 紅ナツヒも」

「巻き込まれただけのような気もするけど」


マサの笑顔とナツヒの仏頂面を思い出して、キサラはそう呟いた。

妖力と笑顔で他の妖怪を従わせるマサは次期当主としてきっと有能なのだろう。


キサラは机に座り、手紙を確認していく。

大学校の他の科への(ゆう)()

他の病院への(かん)(ゆう)

論文の内容の問い合わせ。

(あや)しげな薬剤の紹介。


「そういえば、論文書いた()(やま)アキって子」


キサラが勧誘の手紙に断りの返事を書いていると、テツが話をふってきた。


「今は墨家の専属医だけど、元々鬼科のエリートだったらしいぞ」

「へぇ」


興味のない内容に、建前だけの感謝と謝罪、本音の断り。

同じ文章を書きながら、返事をする。


「前に、鬼科の『ヒラ』ってやついただろ?」

「ああ、紅家に行って、ナツヒ様の相談をされた医者……」

「そう。どうやら、アキ先生は『ヒラ』にいじめられて、大学校を去ったって話だ」


キサラは思わず返事を書く手を止めた。

アキは大学校を恨んでいた。

それに、坂城家が紅家の専属医を継いでいるのとは違い、アキは墨家の専属医をしなくてもいい人だ。

なぜあんな風に働いているのか、キサラを(した)うのか。

すべての理由がなんとなくわかった気がした。


「あ」


手紙の中に紅家の(もん)(しょう)を見つけて、手を止める。

嫌な予感がしてすぐに、中身を確認する。


「……テツ、今日の夜、ご飯どう?」

「珍しいな、キサラが誘ってくるなんて。だが残念!大先生とご飯に行きたいのはやまやまだけど、今日は同期でご飯会だ」

「あ、ソウデスカ」


机に()()す。

少し考えても、断る理由が思いつかない。

どうやらナツヒとの食事には行くしかないようだ。

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