六十、過去回顧
ナツヒとマサは二人で小屋を出た。
首飾りを受け取ったキサラは、それ以降喋らなくなった。
手際よくナツヒの体を見て、調子はいいようですね、と言うだけ。
琥珀の首飾りをつけたキサラは、以前にも増して感情がわからなかった。
「まぁ、よかったじゃないか」
「ああ……」
ナツヒの目的はあの首飾りを渡すこと。
可能なら、今夜の食事を誘いたかったが、キサラの機嫌を損ねることを恐れ、勝算は低いと早々に退散した。
橋を渡りながら、沼の水面を眺めるナツヒ。
先ほどのキサラの姿が脳裏から離れない。
「収穫もあったしねぇ。キサラは男を連れ込んでない。心に決めた相手もいない。首飾りを受け取ってくれた。上々じゃないかぁ」
「ああ……」
水面に映るのは自分の顔。
沼の底は黒くみえるのに、自分の赤い角と瞳はやけに目立って見える。
「俺が角ありじゃなければ……」
そんなことを思ってしまう。
水底からは何も返っては来ない。
が、ナツヒはひっかかりを感じて足を止めた。
「ナツヒ?どうしたぁ?」
先をいくマサが振り返る。
ナツヒは水面を見ていた。
こうして、水と顔を合わせるのはいつぶりだろうか。
「おい、マサ。屋敷の裏手に古井戸はまだあるか?」
突然の質問に、マサはただうなずいた。




