六、のみ薬以外の治療
昼頃。
キサラは、ナツヒの部屋の前にいた。
そこに、大量の荷物を持ってきた鬼と共に現れた坂城と合流する。
「円弧先生、ご指定のものです」
「ありがとうございます」
人間と違い、体力仕事が得意な妖怪達は、大量の荷物を持っても顔色は変わらない。
キサラはナツヒの部屋を叩いてから、中に入った。
「ナツヒ様。失礼します」
「ああ」
扉を開けると、ナツヒの赤い瞳が暗い部屋で光った。
こちらを見ている。
「朝に伝えておりました荷物を部屋に置かせていただきます」
「……ああ」
沈黙後に同意。
少なくとも拒否はないようだ。
坂城が複数の鬼達と共に部屋に入ってくる。
「……なんだ坂城もいるのか」
「ナツヒ様、少し顔色がよくなったように思います」
「…キサラのおかげだ」
ナツヒと坂城の会話が背後で聞こえるが、キサラは作業が短時間で終わるように手早く指示をした。
キサラの指示通りに鬼たちは荷物を置いていく。
「……で、この植物はなんなんだ」
鬼たちが全ての荷物を置いて出てから、ナツヒがキサラに訊ねてきた。
坂城も気になるようにキサラを見ている。
暗い部屋の中のところどころに置かれているのは鉢植えの植物。
「俺が火を操る鬼なのを忘れてないか?」
燃やすぞ?とでも言うように笑う。
キサラはにこり、と笑顔を浮かべた。
「今は火は思うように使えないはずですよ、ナツヒ様。それにこの植物は治療の一つです」
「ほう」
「これらは、部屋の湿度を調整する効果があります」
「それが俺の病気と何の関係が?」
「ナツヒ様の病気は体の中に水が溜まる病気と考えられます。この部屋の湿度を調整し、ナツヒ様の体から水を出します」
「では、あの薬は?」
坂城が言うのは、昨日キサラが調合した薬のことだろう。
「あの薬はナツヒ様の体の水を調節する作用があります。効果が早ければ数日後にはわかるでしょう」
「なるほど」
坂城が手元に紙片を取り出し、メモをとる。
勉強熱心だ、とキサラは感心してみていると、視線を感じる。
「ナツヒ様?」
こちらをじっとした目でナツヒがみていた。
「…キサラ、そいつは結婚してるぞ」
「だからなんです?」
「俺がいるだろ」
「わけがわかりません」
「君は俺と結婚するんだからな」
「ナ、ナツヒ様⁈⁈⁈」
キサラが否定するより早く、坂城が叫んだ。