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五十九、琥珀の首飾り

「なんですかこれ」

「俺がキサラに(おく)りたいと思ったもの」

「受け取れません」

「受け取ってほしい」


ナツヒがキサラに差し出した箱は、どう見ても高級品だ。

そんなものをキサラが受け取れるはずがない。


「ナツヒ様。私はただの『闇医者』です。しかも、紅家が治める領地外です。私は受け取れません」

「俺を治したお礼と言えばいいか?」

「お礼は、紅家から十分過ぎるほどいただいています」

「ふむ……」


ナツヒは立ち上がり、机を回ってくる。

キサラが静かにそれを眺めてみていると、キサラの前でとまる。


「俺は君のためにこれを選んだ」


ナツヒはそう言いながら、するすると箱を(しば)るひもを外した。


「中身を見たら意味がわかるはずだ」


箱が開く。

暗い小屋の中なのに、弱い光を集めて光っている。


()(はく)……」

「そうだ」


でてきたのは琥珀の(くび)(かざ)り。

琥珀自体は大きくはない。

(とく)(ちょう)(てき)なのは、中に大きくくりぬかれた穴のある琥珀。

琥珀は高価で、キサラにも手を出せない。

細く長い指でナツヒが首飾りを持ち上げた。


「これを君に渡したい。人間として生きる君に。角ありのような俺たちには、君のわずかな妖気も気付く」


琥珀は人間にも妖怪にも好まれる(ほう)(せき)の一つ。

ことさら、何かを含む琥珀は、妖力を増すとして、妖怪に人気だった。

しかし、ナツヒがキサラの前に(かか)げる首飾りは中身がくりぬかれている。

この琥珀は逆の効果を持つ。


「これがあれば君から()れる妖力がなくなる。だから、君につけていてほしい」


中身を失った琥珀は、中身を(おぎな)うように、周りの妖力を静かに吸収する。

そんなものをつけたがるものはいない。

キサラのように、妖力を隠したいもの以外には。


「俺は、君の妖力に()れた。一生忘れることがない、一目惚れだった。けど、キサラは人間として、妖力を使わないで生きると決めた。だったら、俺もそれを応援したい」

「キサラは気付いていないようだけど、ずっと妖力は漏れ出てるんだよ」


それまで黙っていたマサが口を挟む。


「僕でさえ、最初に違和感をもった。でも、それを付けていたら、人間と疑わなかったと思う」


キサラはふとマサと廊下ですれ違ったときのことを思い出した。

マサが足を止めた理由。

無意識に出ていた妖力だとすれば。


「多分、角ありじゃ無くても、違和感を持つものはいたと思うよ。言わないだけでね。確証は持てなかったから気のせいって思ったのかもしれないね」

「特に、気持ちが()れ動くときに妖気を感じる。俺達妖怪ほどじゃないが、こっちはそれに(びん)(かん)だからな。気付く」

「……」


全く知らなかった。

皆、違和感だけで気にならなかったのか。


「人間が妖気を出していては、余計なことで(から)まれるかもしれない。俺は、それから少しでも守りたい」


黄金色の琥珀。

キサラには初めて知った事実に迷っていた。

妖力にまつわる(めん)(どう)ごとはなるべく避けたい。


「俺みたいに、君のわずかだけど強い妖力に惚れる妖怪を、なくしたいしな」

「それは余計です」


思わずそう突っ込む。

ナツヒの乾いた笑い声が小さく聞こえた。


「本音だ。それに、紅家としてお礼はしていても、俺からのお礼はこれが初めてだ」

「……そう、ですね」

「キサラ、受け取っときなよ」


マサがひらひらと手を振りながらそう言う。

キサラはまだ迷っていた。

それをみてナツヒは苦笑する。


「服の下でもいい。誰かに見せてほしいというわけでもない。ただ、君を守るために」


ナツヒの手がキサラの首に回る。

逃げられなかったのは、動けなかったせいだ。

決して、気持ちが(かたむ)いた訳ではない。

そう思っている間に、首に小さな重力がかかる。


「これを受け取ってほしい」


つけたって何も変わりはしない。

それでも、なぜかキサラはその首飾りを外す気にはならなかった。


「………ありがとう、ございます」

「うん、似合ってる」


目の前で笑うナツヒを(ちょく)()できなくて、キサラは目をそらしてしまった。

目に毒だけじゃない、心臓にも毒だ。

そんなキサラの手を温かい何かがつつんだ。

はっとして見ると、ナツヒは変わらず、キサラをみていた。


「キサラ。俺はいろいろ考えた。君が出て行って数ヶ月。体調はよくなって、いろいろ考えた。許嫁もあったけど、やっぱり君がいい。でも、すぐにが難しいのもわかってる。時間が、ほしい」

「……」


時間があっても、何も変わらない。

そういってやりたいのに、言葉が思うように出なかった。

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