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五十六、突然の訪問

「早めにみてほしい、ってマサ様が」

「ああ、ありがとう」


ヤスロウから受けとった手紙を開けて、キサラは固まった。

マサからの手紙に書かれている今日の予定。

もっと早く言ってくれ。

一瞬、ヤスロウに(あく)(たい)をつこうと口を開きかけるが、彼は悪くない。

(のう)()にちらつくマサの笑み。

絶対に確信犯だ。


「こちらを墨家に」

「わかった」

「あと、おばあさんに薬といつもの」

「ああ、助かる。煎じ薬を気に入ってる」

「それはよかった」


事務的な会話を交わす。

しかし、気が気ではない。

ナツヒがマサとともにここに来る。


「じゃぁ」

「ええ」


ヤスロウを軽く見送り、小屋の扉を閉める。

部屋をざっと見渡す。

マサは事前の連絡もなく、キサラの小屋にくるが、それにはもう慣れた。

しかし、ナツヒが来るなら話は別だ。


「もっと、早く、いえ!」


(せま)い小屋でひとしきり叫び、冷静を取り戻す。

机は狭く、椅子は二つしかない。

こんな空間に背の高い鬼二人がいると想像すると、狭い。

二人の雰囲気も相まって、奇妙な状況になるだろう。


椅子のほこりを払い、お湯の準備もする。


「……お前!」


小屋の外が騒がしい。

沼の大きさを考えても、小屋の前の橋の上。


「何……?」


嫌な予感がする。

キサラは慌てて小屋の扉を開けた。


「お前!キサラに何を!」

「おいおい、ナツヒ、落ち着けってぇ」


橋の上でヤスロウにナツヒが詰め寄っている。

紅家を去ったときよりも、ナツヒの立つ姿は力強い。

顔色がいい。

心なしか、頬もふっくらしている。

そんなナツヒを止めようとするマサ。

惨状ともいえるその光景に、キサラはため息を吐いた。


「……ナツヒ様。何しているんですか」

「キサラ……」

「うちの前で騒ぐのはやめていただけますか?」

「いや、だが……」


久しぶりに見るナツヒの赤い瞳は最後にみたときより深くなっていた。

しかし、キサラがにらみつけると、すぐに目が泳ぐ。


「なんで、こいつが……君を……まだ傷つけているのかと……」

「彼には仕事をしてもらっているだけです。それに、薬も取りに来てくれているんですよ」

「ナツヒ、落ち着け。彼はもうキサラの命は狙ってない」

「だが……!」

「ナツヒ様のお気持ちもわかります」


ヤスロウはナツヒから距離をとり腰を下げた。

その瞳はナツヒから逃げず、ナツヒを見る。


「当時ナツヒ様にお仕えしていたキサラを(おそ)ったこと。その件については、申し訳ありませんでした」

「……」


ナツヒはヤスロウをにらみつけている。


「あのときの俺は、何も知らなかった。確かに、うちの父や祖母はまだキサラのことを疑っています。けど、俺は違います。キサラにも説明しました」

「落ち着けナツヒ。彼の言っていることは本当だ」


ナツヒは何も言わなかったが、もうヤスロウに飛びかかる勢いはない。

あのときのような、キサラが感じるほどの強い妖気は感じない。

キサラは大きく息を吸った。


「マサ様。あの中に急ぎの書類が入っています。早めに届けてあげたいのですが」

「わかった。ヤスロウ、早く持って行ってあげろ。こちらは僕に任せて」

「はいぃ!」


ヤスロウはマサとナツヒに頭を下げると、()けていった。

キサラは背中を見送りながら、ちらり、とマサを盗み見した。

マサの口元が微笑んでいることに気づき、心の中でため息を吐く。


「で、お二人(そろ)って、突然何の用でしょうか?」

「やぁ、キサラ!ナツヒを連れてきたよぉ!」

「……久しぶりだな」

「ご()()()しています、ナツヒ様」


ナツヒの体調は元気そうに見えるのに、屋敷にいたときのような勢いはない。

おとなしくなったな、と思いながらキサラは頭を下げた。

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