五十五、自信のないナツヒ
「久しぶりだなぁ、ナツヒ。冬は随分とやってくれたなぁ」
「ああ」
「………ナツヒ?」
墨家を訪れたナツヒは、マサの部屋でお茶とお菓子を黙々と食べていた。
予想よりもおとなしいなナツヒにマサは首をかしげる。
「どうしたぁ?」
「キサラに会いに来たんだが」
「ああ、そうだろうなぁ」
「昨日沼地をみてきた」
「おぅ。キサラは喜んでたか?」
「会ってない。家に人間の男がいた」
「……んん⁈」
うつむくナツヒに、マサがむせ込む。
「昨日の夜?」
「ああ」
「あの狭い小屋に?」
「……ああ」
マサはふと考える。
あのキサラが男。
一人だけ、思い当たることがある。
「……で、お前はその男になぐりかかった?」
「相手は人間だ。そんなことをしても、キサラには嫌われるだけだろ。昨日の夜は帰って行ったから、まだ”そう”じゃないかもしれない」
「ほぅ」
マサは口元を隠し、その下でにやり、と笑った。
「キサラだって、年頃だし、俺たちじゃなきゃ妖怪の血が混じってるなんて思わないしなぁ。実は求婚されているのかも」
「マサ……」
冬に暖かい妖気を送り込んでいたとは思えないほど消沈したナツヒ。
マサは笑い出さないように気をつけながら、妖力も抑える。
「マサ、明日は暇か?」
「ああ」
「キサラのところにいきたい。だが、その、もし俺が飛び出しそうだったら止めてほしい」
「自信がないなら、最初からそういえばいいのに」
「うるさい」
その言葉にも勢いがない。
ナツヒがなんと言おうが様子を見に行く気だったマサは、笑顔でナツヒの背中をたたいた。
「お前の友人だ。もちろん行くに決まってるだろ」
「………なんで君はそんなに楽しそうなんだ」
「そういう生き物だからなぁ」
くくく、とマサは笑い、確認のために自室を後にした。




