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五十、ヤスロウの気持ち

「……念のため、伝えておく」


沼地の用はなくなったが、なんとなく足がその場にとどまる。

ヤスロウは薬袋を(にぎ)りしめた。


「鬼とのつながりを持っていることは、俺たちも()(あく)している」

「でしょうね」

「父上は、お前が俺たち一家を鬼に(ほろ)ぼしてもらうように手引きしていると思っている」

「へぇ」


驚いてもいない返答。

予想をしていたか、誰かに聞いたのか。

紅ナツヒや墨マサと話をしていなければ、やっぱり企てたのか、と思い込んでいただろう。

しかし、ヤスロウはその二人と相対しているからこそ、企ててはいないと言い切れる。

ヤスロウにとっても、正直それはありがたいと思っていた。


「父上は……まだ本家に戻る機会を伺っている」

「さすが野心家の泉狐家だこと」

「父上は俺を次期当主になるように動いているが、キサラに邪魔されたくない」

「全く興味ないから」


最初は本当に邪魔をするなら、ナツヒの治療やマサの依頼だとしてもキサラは二の次に手をうつはずだ。

例えば、依頼を受ける代わりの(ほう)(しゅう)に。

だが今は違うと、ヤスロウにはわかる。


「違う」

「え?」

「伝えたいのは、父上と俺は違う、っていう話だ」

「というと?」


キサラは首をかしげる。

こんなことを、ヤスロウは話をしたことがなかった。


「俺は、妖狐の次期当主なんて、本家なんてどうでもいい。俺は、今のこの暮らしが、静かな暮らしができればいいと思っている。お前がこの暮らしを(こわ)す気がないなら、それでいいんだ」

「……」


祖母の看病をしながら、(とりで)の戦いに入るわけでもない。

(ぜい)(たく)じゃなくてもいいから、最低限の暮らしができればいい。

それをキサラが壊さずにいてくれるなら、それでいい。

墨家からの仕事を淡々とこなすだけでいいなら、それでいいんだ。


「……最初からそのつもりよ」


キサラは表情を変えず、ただそう言った。

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