五、ナツヒの体調
「失礼します」
次の日。
キサラはナツヒの部屋にいた。
部屋の中は昨日と同じく暗くじめじめしたまま。
しかし、昨日は毛布をかぶったままだったナツヒが、毛布から顔だけ出して、布団の上に座っていた。
「ああ。おはよう」
「……おはようございます」
キサラを確認したナツヒは微笑んだ。
「状態を確認に来ました」
「待ってたよ」
ナツヒの声色は昨日よりも良くなっているのは気のせいだろうか。
キサラはナツヒの一言を無視して、記録を用意する。
「昨日の調子はどうですか?」
「体が少し軽くなったような気がする」
「それは良い兆候です。薬を飲んでから不調なことはありませんか?」
「特にないが、どんな症状があるんだ?」
「体がかゆくなったりします」
「ふむ……背中がかゆいかもしれない、見てほしいな」
「………わかりました」
ナツヒの笑みが気になったが、キサラは気にせず、ナツヒの背後に回り、肌に直接触れる。
健康だったなら、きれいな肌と称されるものだろう。
キサラは皮膚の症状を探してみるが、乾燥している以外には特に問題はないようだ。
「大丈夫そうです」
「それはよかった」
「乾燥はしているようなので、保湿の軟膏をお願いしておきましょう」
「君が塗ってくれるなら」
心なしか、ナツヒの声が楽しそうなのは気のせいだろうか。
「ではやめておきましょう」
「君が塗る気になったら用意してほしい」
「………診察します」
「ああ」
途中から会話が壊れる。
流されてはいけない。
ナツヒの言葉を適当に無視して、診察のために手足に触れていく。
ナツヒは気を悪くする様子もない。
「窓は開けなくてもいいのか?」
「大丈夫ですよ。問題にはなりません」
目を見ていると、そんなことを聞いてくる。
「それに、太陽の光は怖いでしょう」
「……必要なら我慢する」
そう言えるのも、きっと体が楽になったからなのだろう。
「いえ、また今度で」
「チッ」
小さく舌打ちされるが、キサラは気にしないことにした。
体をみた限りでは何も変わりはない。
体が楽になっているのは、薬の効果か気のせいか。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
キサラの言葉を聞いて、ナツヒはまた毛布をかぶった。
キサラはその場で記録を始める。
「昼頃にもう一度伺います」
「会いに来てくれるのは嬉しい」
「違います。部屋に必要なものを置きます」
「そうか」
でも会いに来てくれるんだろ、と毛布の隙間からこちらを見上げてくる。
キサラは眉根を寄せるにとどめた。
昨日の一言は気の迷いに違いない。
こういう性格には無視が一番だ。
「では」
「俺が元気になったら、結婚しよう」
「…お断りします」
言えた。
悪態をつかなかったことを、褒めてほしい。