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四十九、ヤスロウの仕事

沼地に来たヤスロウは、一度足を止めた。

沼の奥に()てられている小屋。

今まで、わざと近づかないようにしていた場所。

ぐっ、と息をこらえて、橋を渡る。


こんなに緊張したのは、妖狐の当主に面会に行くとき以来かもしれない。

心臓に連動するように手が震えてくる。

もし失敗したら、角ありの鬼には勝てない。

前に(あい)(たい)した紅の鬼も恐ろしかった。

しかし、墨の鬼は、あの笑顔が逆に恐ろしさをかき立てている。

何より北領を治める墨家。

機嫌を悪くすれば、この国から追い出される可能性だってある。


『コンコン』


ヤスロウからするとかなり小さい扉。

だが、相手を考えると、これぐらいがちょうどいいのだろう。

扉をたたくと、奥で人の気配がする。


「本当に来たんだ」

「……」


現れた小屋の主は、ヤスロウを見ても驚かなかった。

無表情のままヤスロウを見上げる。


「マサ様から話は聞いています」


その目は昔から変わらない。

ヤスロウはいつもキサラの目を見ると、元気だった頃の祖母を思い出す。


「ああ……これだ」


多分その感覚が苦手で、キサラには近づきたくなかった。

決して、父親からキサラに近づかないように言われているだけではない。

ヤスロウは妙な恐怖感と罪悪感を抱きながら、キサラに用件の物を差し出した。


「墨家からだ」


無言でキサラはそれを受取り、中身を確認する。

墨家とキサラの間だけでやりとりをしたいものがあると、墨家から頼まれたが、内容については知らない。


「なにを…(たくら)んでる?」


気がつけば、そんな言葉が出ていた。

先日まで紅家で住み込みで働いていたキサラ。

ヤスロウの父の見立てだと、鬼に()びを売っているんじゃないかと言っていた。

しかし、今は紅家から離れて元の場所で『闇医者』に戻っている。

それなのに、次は墨家とつながっている。


「別に何も」

「前は紅家、今度は墨家……」


妖狐の本家をもってしても、国を守る鬼にはかなわない。

ヤスロウの一族が恐れているのはそれだ。


「マサ様にも同じことを聞いた上で、私に聞いている?」

「……」


ヤスロウは知っている。

キサラが妖狐としての()(しつ)は何一つないことも、感情に流されずに物事を考える人間であることも。


「……いや、今のは忘れてくれ」

「そうしましょう」


キサラは静かに(うなず)き、文書を部屋にしまい、別の物を持ってくる。


「この仕事は、マサ様が私に依頼されたもの。そして、マサ様はヤスロウを信頼していると言っていた。私もあなたもマサ様を裏切らないことが大事」

「そうだな」

「これもマサ様からの依頼なので、渡すだけだから」


キサラはそう言って、見覚えのある紙袋を差し出した。


「この文書の代わりに、薬代と薬の(うん)(ぱん)(りょう)はマサ様が払ってくれることになっている」

「ああ……」

「それと」


紙袋の他に出てくるのは、竹でできた(すい)(とう)

中に液体が入っているのがわかる。


「薬は単体で飲んでも効果はある。でも、この煎じ薬と飲むとより効果が現れるとされている。これまでは渡せなかったけど、直接なら渡せる」

「……」


ヤスロウは水筒を受け取る。

マサにはヤスロウに文書を見ないように、(くぎ)()されている。

ならばヤスロウの父親はキサラを探ってこい、とヤスロウに言ったのだ。

しかし、紅家のときもそうだった。

キサラは淡々と医者としての仕事をこなしているだけだ。


「ありがとう」

「……」


気がつけば、そんな言葉が出てきた。

キサラが驚いた顔でヤスロウを見てくる。

そういえば、今までキサラにお礼を言ったことがなかった。

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