四十八、マサのいい話
「というわけで、妖狐が今後、ここに仕事に来る」
得意げにマサは鼻を鳴らす。
キサラには、それがどういう意味か、よくわからなかった。
「なぜマサ様がわざわざご依頼されたんです?」
「よく聞いてくれた。それがもう一つの用事だ」
マサが得意げなのが理解できないが、キサラはもう無視した。
こういうときはしゃべらせてしまうのがいい。
「先日手紙で伝えたように、うちの専属医が『ミズタマリ』の調査を始めている。それを論文にまとめようというんだ。そこで、是非とも円弧キサラ先生にご助力願いたい」
「……大学校の医者に頼んだらどうですか?」
キサラは感情が入らないように言葉を紡ぐ。
論文にまとめて発表したりするのは大学校の仕事だ。
「君だって、大学校の先生だろ?けど、うちの専属医は大学校に恨みがあるらしくてねぇ。嫌でも力は借りたくないらしい」
「今、私も大学校の医者だって言ってましたよね?」
「キサラは週一回しか行ってないし、なによりうちの専属医はキサラを気に入ってた。なんかしらないけど」
そう言ってマサは屈託のない笑みを浮かべる。
すべてをキサラに伝えるつもりはないらしい。
知らなくてもいいことは世の中にたくさんある。
「近々、専属医がキサラのところに来ると思うよ。でも、主な書類を墨家とここでやりとりすることになるし、極秘書類が途中でなくなってしまうのは避けたい。だから、専属の飛脚をお願いした」
「それが先ほどの妖狐、ということですか」
「その通り!しかも、その妖狐の親戚がキサラにかかってて、薬もついでに受け取れるという!」
「……マサ様?」
キサラは静かに聞いていたが途中から違和感に気付く。
北領に住む妖狐、その親戚がキサラの薬を飲んでいる。
まさか、と嫌な予感がする。
「……名前を聞いてもいいですか?」
「泉狐ヤスロウと言ってたなぁ!」
「……マサ様。わかってやってます?」
「なにがぁ?」
マサの笑みにキサラは問い質す気力をなくした。
悩んだあげく、「知らなくてもいいことは世の中にたくさんある」と呟くにとどめた。




