四十三、ナツヒとマサの昔話(前編)
これは昔の話。
ナツヒとマサは火と水の属性で、拮抗している。
その力は同等でないと、国全体の気候にも影響することもある。
そのため、次期当主である二人は、時折力試しをしていた。
「……強くなったな?」
「だろだろぉ?」
「鍛錬したんだぜ?」と得意げにマサが笑う。
二人がいるのは、北領にある訓練地。
マサの領地であるが、地の利ではない。
ナツヒは自嘲の笑みを浮かべた。
もっと強くならないといけないな、と。
「そういえばさぁ」
季節は春。
少しずつ夏の気配が出てきて、ナツヒが有利な季節だ。
二人は腰掛けに座り、冷たいお茶で体を休ませ、世間話をする。
これも立派な情報共有だ。
「最近うちの弟達がまた強くなったんだよなぁ」
「ほーやっぱりマサの背中を見てるのか?」
「そう思う?僕もだ」
にやり、とマサが笑うが、すぐに「違うらしい」と苦笑に変わる。
「うちの屋敷の裏に『修行の古井戸』ってのがあってな。昔からこの古井戸で修行すると強くなるっていう言い伝えがある」
「へぇ」
俄然興味がわいてきた。
先ほどの妖力のぶつけ合いでも、ナツヒが負けたばかり。
紅家の次期当主として、負けたままではいられない。
何か強くなる手がかりがあるのなら気になる。
「すぐそこにあるけど見るか?」
ナツヒが興味を持ったことに気付いたのか、マサがそう言う。
「見てみたいな」
ナツヒとマサは立ち上がる。
マサについて墨家の屋敷の裏に行くと、蔦が絡まる木枠に囲まれた古井戸がそこにはあった。
「……底が見えないな」
覗いただけでは井戸の底は見えない。
ナツヒは右手に妖気を貯めて、小さな小鳥を作り出す。
火の妖力を持った小鳥は井戸の中に入り、その底を映し出した。
「深い井戸だが、水が流れている」
火の小鳥は水に触れるとジュゥという短い音で消えてしまった。
「地下水というか、地下河川、暗渠というのかなぁ。かなりの深さがあるらしい。で、たまに妖怪達が度胸試しって飛び込んでる」
「死んだりしないのか?」
「それは聞いてないなぁ。この地下水には流れがあって、最終的にはどこかに出るらしい、どこかは僕はしらないけど」
じぃ、とナツヒは黒い水面を見つめた。
そして、おもむろに着ている甚平を脱ぎ始める。
「はぁ?ナツヒ?!」
「度胸なら負けない。それに、強くなりたい」
「あ、っておい!」
マサが止めるのも聞かず、ナツヒは井戸に飛び込んだ。
すぐにぽちゃん、と音が井戸に響き渡る。
「ああ、無事に着水したんだね、って!こらぁ!」
慌ててマサも甚平を脱ぎ、ナツヒの甚平を拾い上げる。
そして、ナツヒの後を追って、井戸に飛び込んだ。




