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四十二、キサラの最後の日
「お世話になりました」
次の日。
キサラが紅家を出発する時。
使用人用出入り口には、坂城の他にナツヒがいた。
昨日は部屋から出てこなかったというのに、仏頂面でキサラを見ている。
「ナツヒ様も、ご挨拶ができてよかったです」
「……寂しい」
「そうですか」
「見送らないことも考えた」
「そうですか」
「君の顔を見ずに出て行くのはもっと嫌だった」
「賢明な判断かもしれませんね」
「また沼地にいく」
「病状が悪くならないように願っています」
「それまで待ってろ」
ナツヒの担当をはずれたキサラは「待っています」なんて言ってはいけない。
キサラは黙って頭を下げ、紅家を後にした。




