三十八、キサラの考え方
そこからの話題は、キサラについてではなく、ナツヒについてが多かった。
実際の感覚や症状、どうやってよくなっていったのか。
カゲツは終始笑顔だったが、ナツヒは仏頂面のまま、返答は必要最低限。
それでも食事は進み、水物に移ったときだった。
「そういえば、先日、ナツヒはキサラさんと食事に行ったそうだね」
「なんですって?!」
「落ち着きなさい、リン」
カゲツはすぐにリンを諫めた。
キサラは無表情を保っていたが、隣のナツヒからはひりつく何かを感じる。
「ナツヒ……改めて聞こう」
「何だよ、おちちうえ」
「お前がキサラさんに求婚していることは承知している。その気持ちはどれほどだ?」
ナツヒのひりつきと同じひりつきが、カゲツからも感じる。
これが、妖気。
「人間と妖怪が夫婦になることは少ない。それでもお前はその道を歩むのか?」
「みんながどうとか関係ない。俺はキサラと結婚する」
ナツヒの言葉は強い妖気とともに食堂に満ちる。
キサラは軽いめまいを覚えながらも、なんとかとどまった。
「それに、父上は気付いているんでしょう。でなければ、キサラをこんな机に座らせるはずがない」
「私としては、ナツヒの方が先に気付いていたことが驚きだな。この部屋をみたときに激昂しなかった。さすが角あり、といったところだ」
「俺はキサラが、人間だろうが、鬼だろうが、それ以外の妖怪の血が混じっていようが、結婚すると言ってるんです」
キサラは他の人の表情を見た。
リンもエンも、その赤い瞳が揺れている。
詳細は知らなかったらしい。
部屋の端にいる赤居や坂城も食事の手が止まり、驚いた顔でカゲツ、ナツヒ、キサラを見ている。
キサラは何も言わず、ただ、カゲツの赤い瞳を受け止めた。
負けては、いけない。
「すまないねキサラさん。先日の食事の時に気付いたよ。その目は人間のものと似て非なる。それにわずかだが妖気が漏れている。気付いていたかな?」
「……いいえ」
「自分に妖怪の血が混じっていることは知っていたね」
「はい」
「ほとんどの妖怪が気付かない程度。申し訳ないが、あなたについて調べさせてもらった」
「仕方のないことです」
感づいたものがいれば、調べるだろう。
それが国を守る鬼の当主なら当然のことだ。
キサラは静かに立ち上がり、頭を下げた。
「黙っていたことをお詫び申し上げます」
「よいよい。今回はそのことを責めるためにここに呼んだわけではない。それに、君は文句を言わず、この席に座ってくれた。それで私は許している。顔を上げなさい」
「ちょっとあなた!」
カゲツの言葉に従いキサラが座るが、リンがこっちを睨んでいた。
「この……この『闇医者』は…!何の妖怪なのですか⁈」
「ナツヒ、答えてあげなさい」
カゲツに指名されたナツヒがキサラを伺う。
それは、言ってもいいか、と気にしているようだ。
キサラは静かに頷くと、ナツヒの瞳がわかった、と強い光を持つ。
「……妖狐です」
「妖狐……!」
「ああ、やっぱりそうだったんだな」
小さな悲鳴を上げるリン。
その隣でぽんっと手をたたくカゲツ。
「本当にわずかだ。その程度なら人間として生きたほうがいい。ご両親の賢明なご教育に感謝だね」
「感謝しています」
「……だそうだ、ナツヒ。それでも、お前は鬼と結婚しないということだな?」
「ああ。俺はキサラ以外とは結婚しない」
「妖怪と人間は違う生き物だ。それぞれが違う、だからこそ我が国が繁栄した。だが、夫婦としてうまくいく例は少ない。お前たちはそれを乗り越えなければならない」
カゲツの静かな赤い瞳は、ナツヒとキサラを捉える。
ナツヒとは違う力を持つ瞳。
目をそらしたくなる。
「ああ。俺は乗り越える」
力強く答えるナツヒ。
しかし、キサラを支配しているのは別の思考。
自分の出生、その背後にある妖狐の一族、ナツヒの立場とその背後にある鬼の一族。
そして、結婚したあとのこと。
感情なんて二の次。
そこまで考えてはっと気がつく。
だから自分は人間なのだと。




