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三十三、ナツヒとマサ

「へぇ」


マサは紅家に数日(たい)(ざい)することになった。

ナツヒの体調がよく、ここ最近の国の状況や妖怪全体の動きなど、情報提供をしているようだ。


キサラはその仕事を(じゃ)()しないようにいつも通り過ごしていた。


「この粉は?」


キサラがナツヒの部屋を訪れると、マサが必ず声をかけてくるようになった。

マサがキサラに興味を持ったらしい。


「河童の(つめ)(くだ)いたものです。植物の効果を高めます」


()()にもできず、キサラは答える。


「どれぐらいの頻度で手入れしてるの?」

「一週間に一回ぐらい、振りかけています」


ナツヒの部屋の一角で、キサラと一緒に(はち)()えを(なが)めるマサ。

その紺色の瞳は好奇心で光っている。


「この河童の爪。まだちょっと妖気が残ってる……」

「知り合いの河童が提供してくれるんです」


キサラが週に一回沼地に帰るときだけ、河童のシノがお茶を()れてくれる。

その上、自分の家族の分も、河童の爪を集めて持ってきてくれるのだ。


「確かに、あの沼地には河童が多くいるねぇ」

「助かっています」

「ふむ、そう伝えておこー」

「おい」


背後から部屋の主の声。

いつもよりも声が低い。


「俺をおいていくな」


ナツヒは、病気で()せっている間に(とどこお)っていた勉学を進めていた。


嫉妬(しっと)なんて、鬼の次期当主がみっともない」


ケラケラとマサが笑っているからいいが、二人きりだったら頭を下げていただろう。

マサがいるから、ナツヒが本気で怒っているわけではない、というのがキサラにもわかった。


「キサラが俺以外のやつと楽しくしゃべっていたら、嫉妬もするだろ」

「……キサラは、僕としゃべってるほうが楽しい?」


マサはわざとらしく眉を下げて、キサラをみてくる。

マサも鬼の妖怪で、人間と比べて(よう)姿()が整っている。

ナツヒに慣れていなければ、(かん)(ちが)いしたかもしれない。


「おい、マサ。やりすぎだ」


キサラが答えに迷う間もなく、マサの顔が視界から消える。

見上げると、座っていたナツヒがマサの頭をつかんで、キサラから引き離していた。

「いてて」と(こう)()するマサの表情は笑っている。


「キサラ」

「はい」


キサラの植物の手入れが終わる頃、ナツヒから声をかけられた。


「今日の夕方は来なくても薬は飲んでおく」

「わかりました」

「夕の薬は僕が見ておくよ」

「よろしくお願いします」


最近はマサがナツヒの散歩に付き合ってくれている。

万が一、ナツヒが倒れたときに、抱えることができるからだ。


「今日は外で食事をとってくる」

「散歩も大分距離をとれるようになったからねぇ」

「マサが先を急かすからだろ」

「元の体力に戻すなら、少し(きび)しいほうがいいだろ?」


それはナツヒが倒れても対応できるマサだからできることだ。

キサラが同じことをすると、本当に倒れたときに、赤居に何を言われるかわからない。


「マサ様。ありがとうございます」

「いやいや、ここまでよくしてくれたキサラのおかげだよぉ」

「そこ、いちゃいちゃするな」


ナツヒが元気になっているのは、マサのおかげのようにも思うのだった。

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