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二十八、キサラの血筋

「君には妖怪の血が一部混じっているだろ?」


さすがのヤスロウがそこまで言ったとは思えない。

それにナツヒは「知っていた」と。

今まで他人に気づかれたことはなかったはずだ。


「なぜそれを……」

「ああ。ヤスロウは言ってないぞ。君からは妖気をわずかに感じる。妖怪だったら強かっただろうな」


驚くキサラとは(うら)(はら)に、淡々と、むしろ嬉しそうにナツヒは続けた。


「そ、そんなことを言われたのは初めてです」

「力の弱い妖怪には気付けない。俺は初めから気付いていたし、父上も気付いてるだろうさ」


そう言われてはっとなる。

夕食のときの含みのある当主の笑顔。

気付いていたのかもしれない。

だからこそ、あの場でナツヒの許嫁の話を出した。


「で?俺にも何の妖怪が混じっているか、何の妖気かまではわからないな。なんの妖怪だ?」

「……」


ナツヒの表情は、キサラを問い詰めるわけでもなく、キサラを責めるわけでもない。

(じゅん)(すい)な興味だ。

キサラは(ぜん)(めん)(こう)(ふく)することにした。


「妖狐です」

「ほぅ」

「父方の祖父が妖狐だったと、聞いています」

「母親は人間か?」

「はい。なので、私の四分の一が妖狐と言われています」

「ああ。納得だ」


何に納得したのか。

キサラには全然理解できなかったが、おそらく、ナツヒが感じ取っているキサラの妖気のことだろう。


「ちなみに妖狐の血が入っている父親は?」

「妖狐の祖父母とともに、国境の守りをしていて、命を落としたと聞いています」


国境の守りは、国の外にいる()(ぞう)()(ぞう)の妖怪との戦いだ。

生き残れる可能性があるのは、完全な妖狐である祖母だけ。

祖母と結ばれた人間の祖父と、妖狐の血が半分しかない父親は早々に死んだ。

最後に父親が残した言葉が、今もキサラは忘れられない。


―――『キサラ、忘れてはいけない。君は妖怪じゃない。君は人間だ』


「キサラ?」

「いえ……」


ナツヒに声をかけられて、(われ)に返る。

母親が死んでからは、キサラは一人だった。

だから、誰にもこのことは話していない。


「では、あのヤスロウとかいう品のない妖狐は」

「彼は祖母の兄弟の孫……なので、(げん)(みつ)には私のはとこ、にあたります」


数少ない、キサラの血筋を知るもの。

何かにつけてキサラの医者の(おん)(けい)にあやかろうとしてくる。


「なるほど。(がっ)(てん)がいった」


満足したようだ。

ナツヒはキサラから目を離し、寝台に戻る。

しかし、キサラは満足からはほど遠い。


「そこまでわかっているのなら」


キサラは目を細めて、ナツヒを見た。


「私をここに置くことは、妖狐の血族に(けん)()を売ることになるのでは?」

「そうか?」


そうは思わないが?と、言わんばかりに首をひねるナツヒは、次期当主のはずだ。

次期当主がこの国を(おとしい)れるようなことをしてどうする。


「私やヤスロウの血筋は、妖狐の本家ではありませんし、私の存在を本家が知っているかもわかりません。ただ、妖狐の血が流れているものが本家の許可なく紅家に(つか)えているとわかれば、都合が悪いのではないかと」


今までは『人間として』であり、妖怪の(せい)(りょく)に関係しないところにいたので、考える必要はなかった。

しかし、この国を支える五本柱の一つ、紅家となると話は別だ。


「まぁばれても問題はないだろう」

「はい?」


キサラとは反対に、ナツヒは気にしていないようだ。


「俺たち妖怪は、妖気で支配し合う。さっきのヤスロウだって、素直に必要な情報を全部おしえてくれた。そして、それは妖狐に伝わるだろ」


問題は無い、とナツヒがにやりと笑った。


「俺は妖狐より強い。問題があるなら、もう父上が君を家から追い出してる」

「そう、かもしれませんが……」

「それに」


にやりと笑ったまま、ナツヒがキサラの瞳をのぞき込んだ。


「俺の体調はまだ完治していない。すぐに倒れてしまうからな。担当の医者にはもっとちゃんと治療してもらわないと困る」

「……わかりました」


その深い赤に吸い込まれそうになるのを必死に耐えて、キサラは返事を(しぼ)り出した。

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