二十六、ナツヒの疲労
ナツヒは、ただの疲労で倒れただけだった。
それでも、責任感と自責の念が拭えず、キサラはナツヒの様子を見ていた。
脈、心音、呼吸の仕方。
どれも、大きな乱れはなさそうだ。
ただ、ずっと寝ているのが、キサラにとってありがたいようで、気まずかった。
「円弧先生。大丈夫ですか」
「はい。大丈夫です」
時々、坂城が様子を見に来てくれる。
どうやら赤居に都度報告しているようだ。
「きちんとお薬は飲んでください」
「はい」
キサラは苦笑しながら、煎じ薬を飲んだ。
妖気を受けた影響はよくなっていたが、経験上しっかり飲んだほうがいいと知っていた。
「ナツヒ様はまだ起きないようですね」
「はい。命に別状はないと思いますが、それでも心配で……」
「本当に代わらなくていいんですか?」
「まぁ、こうなってしまったのは、私の責任みたいなものですから……」
ヤスロウはすでに屋敷から放り出されたと聞いた。
ヤスロウの話は、ナツヒだけで聞いたらしく、屋敷にいるどの鬼も、ヤスロウが何を話したのかは知らないらしい。
だからこそ、ナツヒの目が覚めたとき、キサラは一番に会わなければならない。
「っ……」
声にならないうめき声。
キサラと坂城が目線をナツヒに向けると、丁度ナツヒのまぶたが開いた。
「ナツヒ様」
「あ、ああ……」
なぜ寝ているのかわからない、というように無表情で天井を見つめていたナツヒだが、はっとして起き上がる。
「キサラ!」
「な、なんでしょう」
目を見開いてキサラを探すナツヒは、焦った表情をしていた。
こんな顔は見たことがない、とキサラは驚き動きが遅れたところに、ナツヒが肩をつかんで来る。
「無事か!」
「ぶ、無事ですが…」
「あの妖狐に捕まれた腕は…」
「ただの打撲です…」
ナツヒに対して抱いていた後ろめたさが飛んで行く。
ヤスロウからキサラの事情を聞いたはずなのに。
「ナツヒ様、ここは円弧先生に任せます。私は屋敷の皆にナツヒ様の無事を伝えてきますので」
坂城が頭を下げて、ナツヒにそう言う。
戸惑っていたキサラは助かった、と息を吐いた。
正直、ナツヒとどう接すればいいか、一瞬わからなくなっている
「坂城先生。ナツヒ様のために、白湯を持ってきていただけますか?」
「わかりました」
坂城の背中に慌てて伝えると、坂城は頷いて部屋を出て行った。




