二十五、キサラとナツヒと妖狐
「円弧先生、大丈夫ですか……」
「はい……」
ナツヒに連れられ、屋敷に戻ったキサラは、坂城の手当を受けていた。
ヤスロウに捕まれた左腕はあざになっている。
単なる力だけでなく、妖気も含まれていたらしく、妖気の影響を和らげる薬を塗る。
「こちらを」
「ありがとうございます」
渡されたお茶は、いつものお茶ではなく、薬だ。
強い妖気に当てられた人間の体調不良をただすための煎じ薬。
キサラは冷えきった手を暖めながら、一口飲む。
「あの妖狐は、お知り合いと聞きましたが……」
「昔からの患者さんの家族です」
「つきまとわれているようですね」
「まぁ……」
キサラはうつむきながら、薬の水面を追っていく。
ヤスロウは別室でナツヒと話をしている。
そして、きっとそこですべて明るみになる。
「あなたならこうなることは予想していたのでは?」
「……」
確かに、消印が違うことは気にしていた。
ただ、気がつかないだろうと思っていたし、わざわざここまで来るとも思っていなかった。
妖狐を甘く見た結果だったと反省すべき点だ。
『ガチャ……』
「ナツヒ様……」
「坂城、キサラは」
扉が開く音のあと、坂城がナツヒの名前を呼ぶ。
今はナツヒの顔を見るのは怖い。
キサラは顔を上げることができず、坂城が代わりに答えてくれる。
「けがも軽傷です。妖気に当てられたせいで顔色が悪いですが」
「そうか、よかった」
座ってうつむいているキサラの視界にナツヒの気配が迫る。
「キサラ、大丈夫か?」
その声色は思っていたよりも優しくて、気まずさが増えていく。
「ナツヒ様……その……」
「よかった……」
その一言とともに、肩に重みがかかる。
視界が真っ黒に染まり、それがナツヒの浴衣だと気づく。
暖かいそれが、肩からずり落ちそうになるので慌てて支える。
「ナ、ナツヒ様⁈」
声をかけても返事がない。
キサラは手に持っていたお茶を机に置き、ナツヒの顔を確認する。
顔色が悪い。
眉間に皺が寄っている。
呼吸が荒い。
「すぐに赤居さんを呼んできます!」
「お願いします!」
後ろめたいという気持ちが消えていく。
キサラは、意識をなくしたナツヒの体をしっかりと支えた。




