十八、恐怖の夕食会
「ときに、円弧キサラさん」
食後のお茶を飲みながら、カゲツの笑みが深くなる。
「ナツヒがずいぶんと気に入っているらしいじゃないか。君は結婚の予定はないのかな?」
「なっ……」
キサラが口元まで運んだお茶を机におくのと、当主の夫人が絶句するのは同時だった。
そこで夫人の表情が初めて変化し、カゲツを睨む。
兄も聞いていなかったのだろう、目を見開いて、果物をつかもうとしていた菓子楊枝を皿におとした。
キサラは予想していたように振る舞うため、無表情を保つ。
面白がっている赤い瞳は、迫力、というよりも、興味でキラキラしていた。
「ナツヒには今許嫁はいない。皆、あのナツヒの弱りように、次期当主としての可能性を捨てたのだろう。なぁ、エン」
「父上、私はナツヒについては何も申していませんが」
「ナツヒが病気になったとき。お前の妖気がそう言ってたんだよ。だが、お前には角は生えず、ナツヒに角が残りつづけ、今、ナツヒの力は元に戻りつつある。ナツヒの縁談の話もまた再開になるだろう。しかし、円弧先生のことも考えなければならん」
「あなた、まさか……」
「ナツヒがずいぶんと君に惚れ込んでいて、求婚してるのだろう?」
「あの!馬鹿息子‼」
夫人の叫びがビリビリと空気を震わせる。
夫人も鬼。
その叫びで坂城は菓子皿をひっくり返した。
キサラも一瞬お茶を落としそうになるのをすんでの所でこらえる。
「まぁ落ち着きなさい。坂城が怖がっている」
「ですが。何故、次期当主である、角ありのナツヒが、人間と、結婚だなんて」
夫人はそう言って、キサラを睨むが、キサラも首を振る。
「お言葉ですが。私は受けるつもりはありません」
「当然です」
「私もまだナツヒとは話ができていないからね」
夫人が叫ぶ中、カゲツの笑顔は変わらず、淡々とそういう。
「円弧先生は、ナツヒの治療を行ってください。ナツヒの戯言は無視してください。治療が順調であれば、私からも話をしてみましょう」
その笑顔の裏には別の何かを見透かされているように感じたが、キサラは気づかないふりをして、無言で頭を下げた。
* * *
「さて」
キサラと坂城がいなくなった食堂。
カゲツは笑みを深めて、周りを見渡す。
「リンは、キサラを好いてはいないな」
「あんな人間を好く、ナツヒの気が知れません」
「ふむ」
カゲツの隣に座る妻、リンはそう言ってかぶりを振った。
カゲツはリンとは逆に座る、長男のエンに顔を向けた。
「エンはどうだ?」
「特に好きも嫌いもないですね。ただ……」
エンはわずかに眉を寄せた。
「ただ……なんというわけではないのですが、違和感があります」
「違和感……そうだな」
エンの回答にカゲツは満足したように喉の奥で笑った。
「こちらも調査をしてみよう」
カゲツは赤居の横に立つ、自身の秘書 藤を見る。
藤は表情を変えずに、静かにうなずいた。
「彼女は……一度も自分が人間とは言ってないからね」




