十六、治療の再開
「失礼します」
「おはよう、キサラ」
開けられたカーテン。
明るい部屋。
寝台の上には、笑顔のナツヒ。
「待ってたよ。今日もその声が心地いい」
「お薬は飲みましたか」
「君を待ってた」
「飲んでください」
キサラは貼り付けた笑顔でそういう。
ナツヒは嫌がる風もなく、薬を手にしていた。
それが確実に口の中に入っていくのを確認して、キサラは記録をつける。
「調子はどうですか」
「やっぱり薬を飲んでるほうが、調子がいいな」
「なら飲めばいいじゃないですか」
「俺は、君のために治しているようなものだから」
「あなたの体です」
キサラは思わず突っ込む。
キサラにしてみたら、ナツヒがどうなろうと、知ったことではない。
ただ、この国は人間と鬼の協力でできた国。
その中でも力を持つ鬼である以上、ないがしろにはできない。
だからこそ、キサラは今ここで働いているのだ。
「そういえば、今夜、当主様とお会いする予定です」
「ああ、そうらしいな」
誰から聞いたのか、ナツヒは知っていたようだ。
あるいは、予想していたのかもしれない。
現当主が、息子でもある次期当主を心配して、その担当医に挨拶をするのは、当然なのかもしれない。
「その際、ナツヒ様の情報をお伝えすることになると思いますが、構いませんか?」
「ああ、問題はない」
人間と違い、鬼は階級を重んじる考え方を持つ。
その階級は妖力を基にしたものらしい。
今のナツヒと同等か、それ以上の妖力を持つのが、今の紅家当主だ。
そういう意味で、ナツヒは当主には逆らえないし、当主がナツヒの情報を知るべきなのが、鬼の考え方なのだろう。
「わかりました」
郷に入っては郷に従え。
キサラは、反論することなく、静かに頷いた。