各隊員の過去編(なぜ彼らはこの道を選んだのか)
では今回は――《ハゲタカ対策専門部》5人の隊員の“過去 に迫ります。
彼らはなぜ、目立たず、報われず、危険すら見えない「心の戦場」に自ら身を投じるようになったのか。
それぞれの痛みと決断、転機を描く 静かなるオリジン集
■《ハゲタカ対策専門部》各隊員の過去編
― 痛みを知った者だけが、痛みに寄り添える ―
藤田 聡
「怒りで世界を変えようとして、すべて壊しかけた」
元・青年運動家。
不当な労働、差別、理不尽な制度。若き日の彼は、怒りを剥き出しにして世にぶつけていた。
デモの先頭に立ち、拳を振り上げ、言葉で人を動かした。
しかし、ある事件で仲間がひとり、命を絶った。
「正しさを語るあんたが、俺たちを無理やり戦わせた」と遺された言葉が、彼の中で何度も繰り返された。
「怒りは武器じゃない。火なんだ。
火は照らすこともできるが、焼き尽くすこともある」
彼は“叫ぶ”のをやめ、「聴く」ことを選んだ。
怒ることを否定せず、その先に再生を灯す者になった。
柴田 雄大
「治せなかった命が、今も胸の底に沈んでいる」
元・精神科の臨床医。
最前線で“生きづらさ”と闘う若者たちを支えていた。
だが、ある患者を救えなかった。
少年だった。
信頼していた。もう大丈夫だと思っていた。
その翌日、少年は自ら命を絶った。
「僕の“時間”は、誰の中にも届いてなかったんですか?」
その問いが、今も消えない。
だからこそ彼は、時間をかける覚悟を持って、この部隊に入った。
「治すためじゃない。“待つため”にここにいる」
渡辺 忠太
「自由を奪うのは、暴力より“思い込み”だった」
元・更生支援官。
非行少年たちの矯正に携わる中で気づいた。
彼らを縛っていたのは、暴力でも家庭環境でもなかった。
「俺はどうせ、こういう人間だから」という思い込みだった。
「自由になれ」と言っても、本人が自分を許していなければ変われない。
忠太は、矯正という枠組みを離れた。
代わりに「その思い込みを解き放つ風」になることを選んだ。
「信じられる選択肢を、ひとつ増やす。それが俺の仕事」
山内 健太
「誰も、自分を必要としていないと思っていた」
元・避難民。災害で家族も故郷も失った。
避難所を転々とする中で、何度も聞いた言葉がある。
「あんたは、ここにいない方が助かる人が多い」
何もしなければ、誰にも迷惑をかけない。
そう思い込み、壁のように沈黙するようになった。
それを変えたのは、ひとりの老婆の言葉。
「あんた、黙ってるだけで、ここに“安心”があるよ」
自分の“在る”ことが、誰かの心の支えになる。
そのとき初めて、動かずに“守る”という役割を知った。
今は、誰かの「最終拠点」として、黙ってそこにいる。
松川 正平
「過去に置き去りにした人が、今も夢に出てくる」
元・歴史研究者。
戦争史、災害史、抑圧の記録――“過去”を語る専門家だった。
だがある日、ある被災女性からこう言われた。
「あなたの話には、私たちの人生がない。
あんた、私たちの“死に損なった時間”を何に使うつもりなの?」
その夜から、彼は資料より人を見つめるようになった。
記録より、生きている“今”にある言葉を記録したくなった。
「その人の“経験”が歴史になる瞬間に、立ち会いたい」
だから今、彼は静かに人の隣に座り、痛みを言葉にする手助けを続けている。
■ 最後に
彼らは皆、一度、自分の“正しさ”に傷ついた者たちだった。
そしてその痛みから逃げず、“再定義”の中に立ち続けている者たちでもある。
「俺たちは、救世主じゃない。
ただ、 もう一度、生きる選択肢”を示す係だ」




