《空を駆ける講の炎》
ここから始まる世界の歴史
次に必要なのは、
「思想そのものをメンテナンスできる機構」、
そして「教祖が神にならない仕組み」。
ショウは筆を取り、こう書き記す。
火は照らせ。だが、神にはなるな。問いを持ち続ける者であれ。
《空を駆ける講の炎》
──移動式布教・共感・観察作戦、開始
ショウは、本拠地の観察施設から動けなかった。
「“火”の俺が動くと、燃えすぎる」
そう静かに笑って、机の上の地図を仲間たちに押しやった。
そこには赤で丸をつけた村や町がいくつも並んでいた。
すべてが“思想の交差点”、あるいは“不信と希望が同居する地域”。
「この中で一つでも火がつけば、流れは変わる。
だから任せる。“空の部隊”に」
その日、プライベートジェット《観照一号》が発進した。
◆ 登場人物と機内の空気
哲也(風)
元学者。冷静で理論派。人々の“思考の風向き”を読むのが得意。
一成(水)
元癒し手。流れるような会話で、緊張や対立を和らげる。人の「感情の湿度」に敏感。
大輔(土)
元建築師。地道で素朴。地域の生活構造を読むのが得意。口数は少ないが、実行力あり。
雅也(空)
操縦士。無宗教だがショウの思想に惚れ込んでチームに参加。高度な状況判断力を持つ。
光太(二人目の火)
かつてショウに思想的に燃やされ、再構築された青年。言葉ではなく、存在そのもので火を灯す。
この5人が、機内で地図と資料を広げる。
「次は南の大集落。ここは旧信仰がまだ強い地域だな」
「なら俺と光太が先に話をしよう。火と火で燃えすぎるのは避けたい」
「水と土で、湿らせてから種を撒く。それが今のやり方」
◆ 訪問1:ミナカタ集落 ― 旧信仰との摩擦
ミナカタには古くから続く精霊信仰があり、外来の思想には警戒が強い。
講のメンバーはまず、村の長老に対し「宗教ではなく“観察の習慣”である」と説明する。
だが、伝統側の代表者が言い放つ。
「見て、調べて、考える? それは“信じること”を壊すための毒にもなる」
一触即発の空気。
しかし、一成が静かに言う。
「信じることも、見直されて初めて“選び直せる”んです」
続いて光太が、ただ静かに“善悪中毒に陥らない”という教義の一節を朗読する。
そこには怒りも否定もなく、「問い続ける勇気」だけがあった。
その夜、村の若者数人がこっそり宿を訪れた。
「俺たち、正直、何が本当か分からなくなってた。
でも、あんたらのやってることは“問いを殺さない”って感じがする。もうちょっと話してくれ」
こうして、小さな火が点いた。
◆ 訪問2:都市型集落 ― 急速な拡大とその代償
セドナでは、わずか3日で《里山ダンジョン講》への参加者が数百人を超えた。
火のように燃え上がったのは、都市で抑圧されていた若者たちの「自分で考えてよい」という許可だった。
しかし、急速な拡大は副作用も孕んでいた。
・一部の新参者が「教義」を曲解し、「善悪はどうでもいい」「何をしてもいい」と誤解
・「観る」「調べる」を飛ばして、短絡的に“無敵化”する思想が一部で流行
・行政との摩擦、旧体制の取り締まりが強化され始める
「火は、育てないと暴れるな」
大輔はそう言って、地元の代表者と“講の指導者制度”の整備に入った。
哲也はセドナに“観察と対話の講座”を残し、去り際に一言だけ伝えた。
「自分で見たことだけを、信じてください。それ以外は、誰かの火です」
◆ 本拠地への報告と、ショウの決断
一連の動きを本拠地で受け取ったショウは、報告書を読み終え、深く目を閉じた。
「火は広がった。そして予想通り、揺れる」
彼は教主・山本と神楽にだけ伝える。
「このままでは、思想が“宗教らしさ”を帯びすぎる。
次に必要なのは、“講そのものを疑える力”を内部に育てることだ」
そして、「講の再観察制度」を導入するよう指示を出した。




