ショウの前世の友人
光太は数少ない大切な友人だった
彼の名は光太。30代半ばのフリーランス・クリエイターだ。朝起きる時間も、仕事の進め方も、付き合う人間関係も、すべて自分で決めたい。誰かに「こうしろ」「ああしろ」と指図されることを、心の底から忌み嫌っていた。
第一章 夜明け前の自由
光太はベッドの上で目を覚ますと、まずカーテンを開けて外の様子を確かめる。今日は何時だろう――と時計を見るのは無粋だ。彼は感覚で起きる。窓から差し込む光の強さや、遠くで鳴く鳥の声で、「そろそろ起きる時間かな」と決めるのだ。
ある朝、目が覚めたのは夜明け前の4時半。まぶたを開けた瞬間、まだ冷たい空気が窓の隙間から入ってくるのを感じた。彼はゆっくりと伸びをすると、そのままリビングへ向かった。朝ごはんは特に決まっていない。パンでも、果物でも、時にはプロテインシェイクだけの日もある。
光太にとって朝の時間は、自分自身と向き合う神聖な儀式だ。誰にも邪魔されたくない。ましてや「朝7時にミーティングだから起きて」とか、「9時までに資料を送れ」といった指示を、絶対に受け付けない。
第二章 満員電車を避ける工夫
東京の中心部で働いていた頃、満員電車に揺られる通勤生活を経験した。しかし、あの圧迫感、他人の肩に押しつぶされそうになる息苦しさが耐えられず、すぐに辞めてしまった。以来、彼は自宅兼オフィスの生活を貫いている。
「満員電車? あり得ないよね」
彼はそう笑い飛ばす。代わりに、打ち合わせが必要なときはカフェで会うか、オンライン通話に切り替える。移動が必要なら、深夜のバスを使ったり、自転車で気ままに走ったり。誰かと同じルートを辿るのではなく、自分の心地よい方法を選ぶのが彼の流儀だ。
第三章 好きな人と、好きなように働く
光太には、仕事仲間と呼べる数名のクリエイターがいる。イラストレーターの真由美、音楽プロデューサーの直人、ライターの梨沙……。彼らとは、プロジェクトごとに集まり、互いの得意分野を掛け合わせて作品を生み出す。固定の上司も、決まったチームもない。
「今度、新しいARアプリを作りたいんだけど、一緒にどう?」
「いいね、面白そう! 私、UIデザインやるよ」
「じゃあ、素材は直人に頼もう。音楽もイメージしてるんだ」
こうして始まる仕事は、いつもワクワクに満ちている。スケジュールも納期も、基本は自分たちで決める。クライアントからの無理な要求があれば、きっぱり断る。断ることに、後ろめたさはない。彼らは互いに尊重し合い、強制されることのない関係性を大切にしている。
第四章 褒めることは喜び
光太は人を褒めるのが大好きだ。真由美が描いたキャラクターの微妙な表情、直人の編曲した一音の間合い、梨沙の選ぶ言葉のリズム……。どんなに小さなことでも見逃さない。
「すごいね、その影の使い方!」
「このコード進行、鳥肌立ったよ!」
「ここ、言い回しが秀逸だね」
褒められた相手は、いつも照れくさそうに笑いながらも、次の創作に向けてエネルギーを得る。光太はそれを見るのがたまらなく嬉しいのだ。
第五章 愚痴を聞かない日々
一方で、光太は愚痴や苦労自慢が大嫌いだ。飲み会やオンラインの雑談で、仕事の愚痴が始まると、彼はそっとスマホを取り出して別のメッセージを送るか、トイレに立つふりをして席を外す。愚痴は「負のエネルギーの押しつけ」にしか見えないからだ。
「ねえ、最近上司がうるさくてさ」
「……(スマホ画面をチラリと見る)」
相手が続きを話し始めても、彼の耳には入らない。自分の創作やポジティブな話題で盛り上がりたい。愚痴は心を疲弊させるだけで、生産性も創造性も生まれないと信じている。
第六章 真の自由とは
ある日、真由美がぽつりと言った。
「光太って、本当に自由だよね。指図されるのが嫌で、自分の時間も大切にして、好きな人と好きなことをして。どうしてそんなふうに生きられるの?」
光太は少し考えてから答えた。
「自由ってさ、言葉で言えば簡単だけど、実は“責任”なんだよね。自分で起きる時間を決めるってことは、成果も失敗も全部自分のせいになる。満員電車に乗らないのは楽だけど、家にいるからってサボってたら誰も助けてくれない。好きな人と働くのは楽しいけど、信頼を裏切ったらもう誰も集まらない。愚痴を言わないのも、自分でストレス管理しないと壊れちゃうから」
彼の言葉には、軽やかさと同時に覚悟が宿っていた。自由を謳歌するには、自分自身に厳しくある必要がある。誰にも命令されない代わりに、自分を律し、自分を鼓舞し続ける責任を負う。
第七章 未来への飛翔
夜が更け、光太はふと窓の外を見上げた。高層ビル群の向こうに、ほんのりと朝焼けの兆しが見える。彼はそっと笑みを浮かべ、椅子を引いてデスクに向かった。
「さて、今日は何を創ろうか」
自由とは、無限の可能性と同義だ。自分のペースで生きるということは、誰かの枠を超え、誰にも予測できない未来を自分の手で描くということ。光太は今日も、自分だけの道を歩み始める。好きな時間に起き、好きな人と語らい、好きなだけ褒め合いながら――愚痴など知らぬままに。
そして彼の背中には、いつも小さな羽根が生えているように見えた。命令の鎖を断ち切った者だけが得られる、自由の羽根だった。




