村の帰還――「静かな革命」
「これは“神の力”でも、“禁忌の技術”でもありません。
これは“失敗した誰か”が残した、“気づくための記憶”です」
■ 村の帰還――「静かな革命」
ショウたちが村に戻ってきたのは、初夏の夕暮れだった。
ナギは懐に、「記憶の種」をそっと抱えたまま。
それは見た目にはただの球体――けれど、近くにいる者ほど“何か”を感じ取る。
ざわつく空気。止まる言葉。
人々の「見えない部分」に触れるような、不思議な存在感だった。
宿の広間でまず話し合いが開かれた。
火除けの面々、学館の教師たち、村長、そして旧派の代表も呼ばれた。
ナギは立ち上がり、静かに言った。
「これは“神の力”でも、“禁忌の技術”でもありません。
これは“失敗した誰か”が残した、“気づくための記憶”です」
誰も言葉を返さない。
ただ、全員が見ていた。“その人間”の目を。
■ 「種」の教育活用――“見る”という授業
記憶の種は、応答学館の一室に安置された。
周囲には干渉を防ぐ結界が張られ、選ばれた少人数だけが「対話」を許された。
教育プログラムとして導入されたのは、“見る力”を磨く訓練。
・先入観を捨てて現象を観察する「無判断観察」
・歴史の断片を複数視点で読み解く「相対史演習」
・“語られなかったもの”を想像する「沈黙読解」
記憶の種は、生徒が一定の訓練を積むと、自動的に“何か”を見せる。
それは映像だったり、言葉だったり、感覚そのものだったりする。
■ 村の変化――“旧派”の理解
最初は反対していた旧派の老人たちも、少しずつ変わっていった。
きっかけは一人の老婆が、授業後にぽつりと漏らした言葉。
「……わしらも、昔は“知らなかった”だけなんじゃな。
見ようともせず、語らず、ただ“決めて”しまってた」
それを聞いたナギが深く頷く。
「だから、今見ればいい。遅くはないよ」
それからというもの、旧派の者たちは自ら授業を受けに来るようになった。
■ 日常に芽生える“選択”
村の子どもたちは、争いごとの前にこう言うようになった。
「見る?」
相手が頷けば、互いに紙と筆を持ち寄り、それぞれの視点を描く。
そうしてから、話し合いを始める。
“火除け”たちも協力して、日常に「記憶の種」の考え方を織り込んだ。
・市場の価格交渉は、両者の“理由”を出し合って決める方式に
・家庭でも「一日一善」ではなく「一日一観」を導入
・村の議会には「選択の記録ノート」が置かれ、誰でも閲覧可能に
■ “次”の気配
ある夜、記憶の種が淡く脈動し始める。
近くにいたナギが、はっとして見つめる。
球体の中心に、また新しい記号が浮かんだ。
「観測、次段階へ移行。
接続申請:外部観測者」
ショウが静かに息をのむ。
「……他にも、“見た”やつがいる。
しかもこっちに、話をしようとしてる」
ナギが小さく微笑んだ。
「じゃあ、今度は“私たち”が、見られる番だね」




