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「火除けの矛」詐欺師を撃退する

上手い話には「眉に唾を付け」てようく観察しましょう

その朝、「火除けの矛」のひとり――名をサノといった男は、朝陽に照らされた市場の通りに腰かけ、ゆっくりとパンをかじっていた。


「あるがまま、あるがまま……」


呟きながら行き交う人々を見ていた。老商人の歩き方、子どもの手に握られた干し果物、魚屋の声の高さ――どれもが情報だった。


そんな時だった。


「やあ、サノさんじゃないか」


滑るように近づいてきたのは、町で名の知れた詐欺師――ザリム。にこやかな表情、品のいい外套、そして“信用”だけで人を破滅させる言葉の使い手。


「聞いたよ、最近“見る”技術とやらを身につけたって。なら……ちょうどいい話がある」


サノは無言でパンを噛んだまま、目だけで応じた。


「金を出してくれれば、一月で倍になる。場所は港の南、まもなく掘られる鉱山。地質は保証されてる。仲間には貴族の従弟もいる。あとで名簿も見せられる」


語り口は流れるようだった。事実も、嘘も、巧妙に混ざっていた。だが、サノは“あるがまま”を見ていた。


ザリムの目の動き。言葉の切り替え。話すときに左手をなぜ隠しているか。


「……貴族の従弟、ってのは名前が出せねぇ。南の鉱山は地盤がぬかるみ。お前、去年も『証文はあとで送る』って言って逃げたよな」


ザリムの笑顔が、一瞬、紙のようにひきつった。


サノは立ち上がり、懐から木箱を取り出した。中には一枚の算盤と、ショウが作った「記録板」――薄い金属の板に情報が打ち込まれていた。


「ここに、去年の騙しの記録がある。お前が金を集めた後、酒場に一晩で七軒現れたって情報と一致してる」


「ま、待て、あれは――」


「あるがまま、見るとな。言い訳ってのは“音”だけになるんだよ」


周囲にいた人々がざわめいた。


「火除けが記録板使ってるぞ……」「異物屋の技術じゃねぇか……!」


サノはザリムの襟元を軽く掴み、警備兵に引き渡した。だが最後に一言だけ、そっと言った。


「お前の話術、悪くはない。次に活かすときは、全部本当の話にしてみろ」


ザリムは無言で連れていかれた。


その日の夕方、町のあちこちで「異物屋」の話題が飛び交った。


「火除けが、異物を使って詐欺を見破ったらしいぞ!」「あの記録板って、ただの板じゃないんだな」


そしてその夜、ショウの元には火除けの面々が酒を持ってやってきた。


「見たぜ、ショウ。あるがままってのは、まさに“目を養う”ことだな。あんたのやり方、俺ら認めるよ」


ショウは静かに酒を注ぎながら、答えた。


「いい目になったな。そろそろ、こっちの世界を見てもらう時かもしれない」


「“こっちの世界”? なんだそりゃ」


「ダンジョンの、もっと奥の話さ。次は、そっちの“異物”を一緒に見に行こう」


笑いが混じる声の中に、確かな信頼が宿っていた。

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