反動勢力「火除けの矛」との飲み会
一日一善とても大事です 楽しく続けましょう
クラム伯との面会から数日後、ショウの耳に妙な噂が入った。
「“火除けの矛”って連中が動いてるらしい。あんたらの“異物”を潰すってな」
火除けの矛――伝統と秩序を何より重んじる、町の古参勢力だった。錬金術や機械仕掛けに反対し、時に暴力も辞さない。ショウたちのような“新しき者”にとっては天敵とされた。
だが、ある晩、彼らの代表がふらりと酒場に現れた。
「異物屋の兄ちゃん……飲めるか?」
ショウは構えなかった。ただ、盃を差し出した。
「飲む前に斬る奴は、商売人じゃないよな」
酒場の片隅。薄汚れた木のテーブルに、ショウと“火除けの矛”の数名が座る。目つきは鋭く、体には傷が多い。だが、盃が回るたび、空気が緩んでいく。
「なあ……お前の“数取り機”、本当に便利なんだな。今日、税取りの記録見てきたが、役人が目ぇ丸くしてたぜ」
「な? 紙と頭だけじゃ、限界があるんだよ。だから道具ってもんがある」
「でもよ、俺らは昔から“神の目で見ろ”って教えられてきたんだ。“道具に頼ると、魂が鈍る”ってな」
「それなら、魂で道具を見ればいい。“あるがままに見る”ってことだ。偏見抜きで、ただ、見てみる」
「……あるがまま、ねぇ」
ショウは卓の上にあった酒瓶を持ち上げ、透かして見せた。
「この酒がどこで造られたか、どうやって届けられたか、誰が手間をかけたか――それを一つ一つ見ていけば、単なる“酒”じゃなくなるだろ? それが“見る”ってことだ」
沈黙。だがやがて、ひとりがぽつりと言った。
「……悪くねぇな。見えると、少しだけ、ありがたくなる」
「それが“反動”を和らげる鍵だよ。あんたらの怒りは理解できる。でも、怒る前に見る。習慣にしてくれ」
彼らは頷いた。次の酒を注ぎながら、誰かが言った。
「じゃあよ、明日から“見たこと一つ、善行一つ”。一日一善、ってやつをやってみるか」
「上等だ。徳の積み重ねってのは、世界を静かに変えるんだよ」
夜は更け、笑い声が店に満ちていく。
異物と伝統が、酒の中で交わり、少しだけ溶けた夜だった。




