町の人々のリアクション
貴族との会話があります
城壁の門をくぐると、町の喧騒が広がっていた。屋台の掛け声、馬のいななき、井戸で水を汲む音。土のにおいと、焼き魚の香ばしい煙が混ざる。
ショウたちは中央市場の広場、石畳の一角に荷車を並べた。看板も旗もない。あるのは木箱と、むき出しの品々だけ。だがそれが逆に人目を引いた。
最初に人々の目を奪ったのは、算盤だった。
「なにこれ、石か?」「動くぞ……」「これ、数を数える道具らしいぞ!」
指で珠を弾いて見せると、子どもたちが群がった。ひとりの書記官風の男がじっと見つめてくる。手にとっては戻し、また別のを手にとる。
「この作り……桐材か?金属の軸?これは……どこで作った?」
ショウは口元を緩めた。「北の方にある、特殊な工房さ。質は保証する。百台ある。」
男は目を細めた。「百?……戦争でも始まるのか?」
笑ってごまかすと、隣で村の老婆が小皿に盛った漬物を差し出す。「まぁまぁ、まずこれを食べてみなさいな。」
酸味と旨味に、思わず顔をしかめる町人もいたが、すぐに「もうひとつくれ」と手を伸ばした。保存食としての価値がすぐに理解されたらしい。兵士風の男が数壺まとめて買っていった。
そして、最後に箱の中から取り出された水晶の首飾り。淡く光るそれを見たとたん、ざわつきが走った。
「魔具か?」「いや、ただの飾りだ」「それにしちゃ、光り方が妙だな」
一人の若い女が、ためらいながら手にとる。「これ……冷たい。中に、何かが動いてる……?」
ショウは淡々と答えた。「ダンジョンで手に入れた。詳しくは……わからない。だが、世界にひとつしかない品だ。」
その一言で、周囲の空気が変わった。希少性、それは商人にとって甘い毒だった。
値段の交渉が始まる。最初は手探りだったが、やがて本気の声が飛び交い、銀貨がちらついた。算盤は興味半分、実用半分で売れていき、漬物は兵士と旅人に人気を博した。水晶の首飾りは、最終的に地方貴族の使者が「持ち主の名も含めて記録したい」と言い出すほどの騒ぎになった。
日が傾くころには、荷車は半分以上空になっていた。
「なあショウ、本当にこれ……売れるんだな。」
商人の一人が驚き混じりに言った。
「売れないのは、説明できない物だけだ。売れる物は、“意味”のある物だ。」
ショウはそう言って空になった木箱に腰かけ、空を見上げた。遠く、鳥のように羽ばたく鉄の機体が浮かんでいるような気がした。
この先、貴族に呼ばれる展開や、ダンジョン技術の詮索が始まる
貴族に呼ばれる展開そこでダンジョン技術の詮索
市場での騒ぎから二日後、ショウたちのもとに、黒装束の男が現れた。無言で文を差し出すと、読み書きのできる村の商人がそれを読み上げた。
「ショウ殿 その品と由来について 貴家の使者より聞き及んだ 是非 城館にてお話を伺いたく存ず」
送り主は、町を治める領主代行――クラム・フォン・レント伯。その名を聞いた瞬間、周囲の空気が冷えた。
「……逃げるか?」誰かが言った。
「いや。逃げれば“怪しい”が確定する。行こう。武器は……いらないだろうな」
屋敷の門は高く、重く、警備は厳重だった。迎えに出た従者は表情を変えず、ショウたちを応接の間に通した。絨毯、香の煙、壁には戦勝記念の槍が飾られていた。
そして、部屋の奥。椅子に座る男がひとり。歳は五十手前、鋭い眼差しと、爪ほども笑わぬ口元。これが、クラム伯だった。
「来たか。……座れ」
低い声が室内に響く。
「市場で売られた品々。中でもあの“数取り機”と“光る石”――あれは、どこで手に入れた」
ショウは正直に答える。
「ダンジョンで見つけました。いや、“借りた”というべきか。元は異界の技術、我々には作れません」
「では、ダンジョンに“そのような物”が眠っているのか?」
「はい。ただ、誰でも取り出せるわけではない。運と、多少の“対価”が必要です」
クラム伯の目が細くなった。
「……君は、異物の流入が何を招くか分かっているか? 鉄を知らぬ町に鉄を持ち込めば、秩序が乱れる」
「承知しています。ただ、売るだけで終わる気はありません」
ショウは胸から、一枚の粗末な羊皮紙を取り出した。そこには、簡単な“算盤の使い方”が絵で描かれていた。
「この技術が拡がれば、帳簿も正確に、取引も早くなる。混乱ではなく、基盤を整える力になります」
クラムは黙ってそれを受け取り、目を通す。やがて、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「面白い。だが――それをどう管理する?」
「販売ルート、使用者の教育、そして“記録”。すべて私がまとめます。伯の名で発布されれば、混乱も抑えられる」
沈黙がしばらく続いた。やがて、伯は静かに立ち上がり、窓の外を見た。
「ならば、君に任せよう。だが、一つだけ忠告する。――ダンジョンの技術は、夢でもあり、毒でもある。飲み干す前に、その重さを知れ」
「心得ております」
「ならば行け。明日、再び城へ。役人を紹介しよう」
そうしてショウは屋敷を後にした。扉の向こう、商人たちは不安げに待っていた。
「どうだった?」
ショウは軽く息を吐いた。
「――面倒が増えた。でも、チャンスもな」




