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泡沫を呼ぶ日々は彼方へ

あの誕生日の日から畑葉さんに会えていない。


今日は3月31日。


もう3月も今日で終わりだ。


そんな時、家のチャイムが鳴った。


『畑葉さんかな?』そう少し嬉しげな足取りで扉を開ける。


が、誰も立っていなかった。


辺りを見回しても誰も居ない。


悪質なピンポンダッシュだったとか?


そんな苛立ちを少し持ちながら、


家へ戻ろうとする。


そんな時、ふと足元に紙切れが落ちているのを見つけた。


「何これ...?」


そんな声を漏らしながらそれを拾う。


と、その紙には畑葉さんの字で何かが書き記されていた。


『古佐くんへ 今日の23:30にいつもの場所に来てください。』


そうただ一言短い文が紙にはあった。


「もしかして手紙?」


てことはやっぱりさっきのチャイムは畑葉さんの仕業なのだろうか?


「せっかくチャイム鳴らしてここまで来たんだったら口で言えばいいのに...」


そう声を漏らしながらも、


僕の口角は何故か上がる。




約束の時間の5分前ほどにいつもの場所である『大きな桜の木が生えた丘』に向かった。


「なんでこんな夜遅くに...」


そんな少しの不満を零しながら歩いていると、


桜の木の下に立っている畑葉さんを見つけた。


「古佐くん!待ってたよ!」


僕に笑みを見せながらそう言う畑葉さん。


だけどいつもと違う謎の雰囲気を感じた。


月は雲に少し隠れ、朧月状態。


「...今日呼んだのはね、古佐くんに話さなきゃいけないことがあったから呼んだの」


少し俯きがちにそう言う。


「話...?」


「うん...」


そう言った後、


畑葉さんは少し深呼吸をしてから再び口を開いた。




「私ね、死ぬの」




「え?」


死ぬ?


そんな言葉を聞いて僕はただ声を漏らすことしか出来なかった。


「私、消えちゃうの」


悲しげな表情をしつつも淡々とそう話していく。


「ね、古佐くん」


「私居なくなっちゃうんだよ?悲しい...?」


急にそんなことを聞かれ『悲しいに決まってる』なんて声に出そうとした。


が、僕が悲しいって言ったら畑葉さんも悲しむんじゃないか?


ふとそんなことを思ってしまい、


「......ううん、悲しくない。大丈夫だよ」


なんて嘘をつき、笑う。


『そっか』そんな返事を期待していた。


が、現実の答えは大きく違った。


「古佐くん、...狐になってるよ」


って。


狐になってる?


どういうことだろうか。


そんな畑葉さんの言葉を聞いた後、


何も言わないでいると畑葉さんが独り言を零すかのように話し出す。


「私ね、変なんだ」


「人が嘘ついたら狐の尻尾が生えているように見えるの」


「ほら今の古佐くん、狐」


そう言って、僕のお尻辺りを指差す。


「悲しいんでしょ?」


「悲しいに決まってるでしょ...」


そんなの当たり前のことだ。


ほぼ一緒に過ごした大好きな人が急に消えるだなんて悲しい他無い。


「ごめんね」


「それでね、約束して欲しいことがあるの」


「...なに、?」


「私のこと、忘れないで」


「名前も声も顔も凪も全部。忘れないで」


少し震え声で。


でも僕に笑顔を向けるのは変わらず。


そう言う。


そんな畑葉さんを僕は抱き締めようとしたが、


身体は言うことを聞いてくれなかった。


「約束、してくれる...?」


「うん...約束ね...」


そう言いながら涙を堪える。


「じゃあ、ばいばい」


「 " 次の春が来る番だから " 私は行かなくちゃ」


そう言ったと同時に畑葉さんは桜嵐に包まれ、花弁が舞った。


そんな時、僕と畑葉さんとの間に雲がかっていたはずの月が光を現した。


月明かりに照らされる夜桜。


そんな時、


『もし、この桜嵐に突っ込んだら畑葉さんは消えないんじゃないか』そう思い、舞っている桜の中に足を踏み入れる。


と同時に " それ " は姿を消した。


いや、空気へと染まってしまったのかもしれない。


畑葉さんの姿も。


桜嵐の姿も。


ただそこに残るのは年がら年中咲いていたはずが、今は枯れている桜の木とただ呆然としている僕の姿だけだった。










あれから畑葉さんには会っていない。


本当に消え去ってしまったのだろうか。


毎日『これが嘘ならば...』と思い続けている。


でも不思議な出来事はあった。


あの枯れた桜の木の近くに桜餅やら桜あんぱんやらを置いて次の日になると、消えている。


花かんむりを置いた時だって不格好だったはずのものが綺麗になって置いてある。


『やっぱり畑葉さんは消えていないんだ』


『きっと今もまだ生きていて、遠くに居るだけなのかもしれない』


そんなことを考えながらも、


きっとそれは全部間違ってると思ってしまう。


「嘘を沢山ついて狐の妖怪になったら畑葉さんに会えるかな...」


そんな声を漏らすも、


きっと怒られてしまうだろうから辞めようだなんて考える。


そして今日もまた桜の木の根元に置く。


「今日は花束だよ」


「そういえば桜の種類でしだれ桜っていうのがあるんだって」


「藤の花みたいで綺麗って有名らしいよ」


ただ1人桜の木に話しかける。


周りから見たら変なやつに見えるだろう。


けど、そんなのはどうでも良かった。


「一緒に見たかったなぁ...」








今日は桜の押し花を置いた。


今日は僕の涙を置いた。


今日は───────




ふと横を見るとカメラが置いてあった。


これは...


そう思いながら手に取る。


「これ...畑葉さんのだ...」


いつも首に掛けてたけど撮りはしていなかったカメラ。


保存データは残っていて、写真は7枚全て残っていた。






1枚目は楓の写真。


2枚目はミントの写真。


3枚目は勿忘草の写真。


4枚目はスズランの写真。


5枚目はサンダーソニアの写真。


6枚目はアネモネの写真。






「なんで6枚も花の写真...」


少し笑いながらそれを見ていく。


が、7枚目の写真はあのいつかの日のマジックアワーと僕が映った写真だった。


「なんでここだけ僕の写真...」


そんな声を漏らしている最中も涙がぼろぼろと溢れ落ちる。


「僕...なんでビデオカメラ買わなかったんだろう...」


そう。


僕は忘れてしまったのだ。


顔も笑顔も声も会話のテンポも全部...


全部忘れてしまった。


ただ覚えているのは『畑葉 凛』という名前のみ。


なんて最低な奴なのだろうか。


神様、どうかお願いです...


お願いだから畑葉さんにもう一度会わせて下さい。


いや、ただ1つだけでもいいです。


声、顔、笑顔、何かしらでいいので思い出させてください。


そう何度願っただろうか。


でも願っても神様は答えてくれない。


きっと告白も出来なかった愚かな僕への罰だろう。


「せめて一瞬だけでも───」






Fin.

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