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戦う聖女は後ろを振り向かない  作者: 日下部える
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2.聖女セレナ

王都、聖女セレナが豪華絢爛な大聖堂で祈りを捧げていた。

聖歌隊の歌は滔々と響き、集まった貴族たちはほぅと感嘆のため息をつく。

歌が終わり伴奏が最後の一節を演奏し終わると同時に司祭が魔法で強化された声で呪文のように言葉を唱える。

「聖女さまの祈りによって王都周辺の魔物はいなくなるだろう。神の寵愛がこの国に光をもたらすのである」

小さな光の粒が大聖堂にゆっくりと降り注ぎ、小さな歓声があがる。

「セレナ様!」

「聖女、セレナ様のお心こそ神に愛された証……」

祭壇で祈りを捧げていた女性がゆったりと立ち上がり艶のある最高級のシルクで紡がれた聖女装束の裾が揺れた。花よりも重いものなど持ったことがなさそうなほっそりとした手を白い手袋が受け止める。

「さぁ、集まった国民にひとこと頂けるかな」

「もちろんです。殿下」

鈴を鳴らしたような愛らしい声に全員が聞き惚れた。


繊細なレースで編まれたヴェールの隙間から黄金色の金髪に白磁の肌が覗き、続いて高貴な生まれを示す明るい青の瞳が晒される。

風が吹けば倒れてしまいそうな細身の体と困ったように下がった眉尻は庇護欲をかきたてられ彼女にじっと見つめられたら誰しもノーとは言えない空気をもっていた。


「セレナ様!」

「なんと愛らしい……」

「いいえ、美しいのですわ!」

「セレナ様のお姿を拝見できただけで寿命が伸びるようです」

「どうかわたしたちに神のお慈悲を分けてください」


「みなさまの祈りは神に届いています。さぁ、今日も神への感謝を忘れませんよう祈りましょう」


霞みのような声にすら民衆は聞き惚れて聖堂のステンドグラスを揺らすほどの拍手喝采が湧きおこる。


「聖女人気には私も嫉妬してしまいそうだよ」

苦笑してウィリアムは民衆に手を振った。これも王太子の役割で、婚約者のエスコートもまた職務の一つだった。

聖女・セレナの礼拝には王太子ウィリアムがエスコートを申し出ており婚約間近という噂は今や国中の関心事だった。


だからこの国にはもう一人聖女がいることなど、ほどんど誰の記憶からもなくなっていた。


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