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続・オーウェンの真実。

【オーウェン視点】

 それからも、僕は身体を取り返せないまま。視界だけが繋がった状態で、見たくもないものを見させられる日々。オーウェンはエミリナに会わなくなり、代わりにココットという編入生と毎日のように逢瀬を繰り返した。

 猫撫で声で媚を売り、エミリナに苛められたと嘘を吐く。そんなことをしない優しい人だと、僕が一番理解しているのだ。

「可哀想に。あの女がやりそうなことだ」

 頼むから、もう止めてくれ。僕の声で、姿で、彼女を傷付けないでくれ。だったらいっそ、婚約を破棄してエミリナを解放してほしい。

 どれだけ願っても、オーウェンはそれをしなかった。都合の良い時にだけ利用して、でっち上げられた証拠を集めて、ココットとの刺激的な恋を楽しむ。障害があるほど燃えるのか、二人はすっかり悲劇の主役を気取っていた。

「オーウェン様。キスをしてくださいませんか?」

 ある日。二人きりの教室で、ココットがそう口にした。

「どれだけ辛くとも、オーウェン様が傍にいてくれたら私は耐えられますから」

「ココット……。君は本当に、僕好みの可愛い女性だ」

 自分とエミリナ以外の唇が重なるのを、ただ黙って見ていた。感触を共有していないことに、どれだけ感謝しただろう。いくら涙を流しても、オーウェンの身体には伝わらない。

 ああ。僕はもう二度と、エミリナに触れられない。たとえ今後身体を取り戻しても、彼女以外と口付けをした事実が消えることはない。

 死にたい。誰か、僕を楽にして。

 《助けて、エミリナ……》

 その願いも、永遠に届かない。愛しい彼女を想いながら、僕はこの地獄から解放されることをただ願うだけだった。


 そして、身体を乗っ取られてから六年後。オーウェンはついにエミリナに婚約解消を告げた。それも、学園の生徒や教師全員が集まるパーティーの場で。

 たった一人で、彼女はなおもオーウェンの心配をする。二人で話し合おうとしきりに口にするのは、この六年で地に落ちた僕の評判を気にしてのこと。

 それすらも気付かない愚かなコイツは、エミリナを罵るだけ。濃赤のドレスを身に纏い、どれだけ傷付けられようとも俯かない彼女は、この場にいる誰よりも綺麗で魅力的だった。

「さようなら、オーウェン様」

 エミリナが『殿下』と呼ばなかったのは、いつぶりだろう。それは彼女が、完全に見切りをつけたということ。僕達は今この瞬間、婚約者同士ではなくなった。

 ココットと共に集めた偽の証拠で、国王である父と王妃である母を説得するつもりらしい。それが上手くいこうがいくまいが、どちらにせよお終いだ。

 エミリナはもう、完全に僕を嫌いになってしまったのだから。

 《いや、だ。嫌だ、嫌だ、そんなの嫌だ‼︎離れたくない、君といたい、こんなに好きなのに、どうして……っ‼︎》

 結局、僕もコイツと変わらない。エミリナを傷付けるくらいなら、解放してあげたいと思っていたはずなのに。こうして現実を突きつけられた今、どうしても手放したくないと思ってしまう。

 エミリナはくるりと背を向け、僕から去っていく。必死に手を伸ばしても、それは決して届かない。

 《エミリナ、エミリナ、エミリナ……!》

「エミリナ‼︎」

 一瞬、締め付けられていた喉がパッと解放されたような、不思議な感覚に陥る。聞こえるはずのない僕の叫びに、彼女が振り返った。意志の強い碧眼と視線が絡み合ったその時、僕の視界は暗転した。

 《せっかく、エミリナに届いたのに》

 あの時確かに、彼女は僕を見た。今にも泣き出しそうに瞳を潤ませて、気丈に振る舞おうと背筋を伸ばして、決して俯かない。僕の大好きなエミリナは、出会った頃と何も変わっていない。

 《変わったのは、僕だけだ》

 薄れゆく意識の中で、オーウェンの身体が一筋の涙を流したのを、なぜか感じ取っていた。

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[気になる点] >「さようなら、オーウェン様」 >エミリナが『殿下』と呼ばなかったのは、いつぶりだろう。それは彼女が、完全に見切りをつけたということ。 普通は逆じゃないの? 婚約者だから名前で呼ぶ、…
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