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12/27

完璧で麗しの兄の友人。

♢♢♢

 今日は、兄レイモンドの帰国祝賀パーティー。まるで王族かの如く盛大に行われる理由は、ただ一つ。

「レオンハートも、エミリナに会えるのを楽しみにしていると、手紙の字が踊っていたぞ」

「はぁ、そうですか」

 先日の夕食会以上に着飾った私は、レイモンドの正面に立ち無表情で頷いた。彼はきっちりとした礼服に身を包み、凛々しい表情でこちらを見下ろしている。

「あの、お兄様」

「どうした?」

「オーウェン殿下は、あれからご回復なされたでしょうか」

 なるべく不自然にならないよう取り繕ったつもりだけれど、レイモンドの片眉がぴくりと反応を示す。けれどすぐに、私を案じるようにふにゃりと下がった。

「ああ。何の後遺症もないようだ」

「そうですか」

「安心しろ、今夜彼は出席しない」

 私が怯えていると捉えられたのかは定かではないが、彼は軽く私の腕に手を添える。

「レオンハートは、きっとお前の傷を癒してくれる」

「今さらですけれど、そのような方が本当に私で良いのでしょうか」

「アイツにも、多少の問題はある。まぁ、会えば分かるさ」

 この土壇場で、初めて聞かされた。そういうことかと妙に納得し、同時に少し緊張も薄れる。やはり、何の事情もない方が私との縁談を望むはずがなかったのだ。

「そろそろか。行こう、エミリナ」

「はい、お兄様」

 自然に差し出された腕に、そっと手を添える。堂々とした出立ちのレイモンドに倣うと、不思議と自分の背筋も伸びるような気がした。

 盛大なオーケストラの演奏と共に、スウォルト家の面々が階上に立つ。両親は鼻高々に両手を振り、兄と私は頭を下げる。きらきらと輝く煌びやかなホールが目に眩しく、開始早々既に疲れていた。

「本当に立派になられて」

「ぜひうちの娘を紹介させていただきたい」

「殿下もさぞやお喜びでしょう」

 誰もがこぞって兄を誉めそやすが、意外にも本人はけろりとしている。両親は彼と違い、ふんぞり返って頷いていた。レイモンドは留学前の評判がすこぶる悪く、内心では皆馬鹿にしていたのだろう。口だけ達者で大した能力もない上に、見た目もだらしない。そんな男が、数年留学したところで変わりはしないと。

 けれどその姿を一目見て、誰もが目を剥いた。美青年振りもさることながら、受け答えがスマートで知性に溢れている。剣術の鍛錬も積んだらしく、スーツの上からでも引き締まった体つきであることが分かる。

 参列した令嬢は皆一様に目の色を変え、猫撫で声で兄に擦り寄る。けれどそれは全く響いておらず、レイモンドは笑顔でぴっしりと一線を引いていた。

 しばらく時間が経つと、周囲の興味が兄から私へと移り始める。明らかに好奇の目を向けられているが、そんなことは気にもならなかった。

「エミリナ嬢も、ますますお綺麗に」

「この度はとんだ災難でしたね」

「オーウェン殿下は女性を見る目がないようだ」

 口を開けば、彼の悪口ばかり。いい加減にうんざりした私は、人酔いをしたからとバルコニーに出る。

「やっぱり、可愛げがないな。捨てられるのも仕方ない」

 後ろ姿に向かって、誰かの嘲笑が飛んでくる。拾ってやる義理はないので、反応すらしなかった。

 賑やかな音楽と、楽しげな笑い声。その輪の中に入れない私は、ただ黙って星空を見つめていた。春めいた気候は過ごしやすく、空気もまだ熱を含まず澄んでいる。

「やぁ、こんばんは。美しいお嬢さん」

 ふと声をかけられ振り返ると、見たことのない男性がこちらに向かってにこりと微笑んでいた。

「良い夜ですね」

「ええ、本当に」

「こちらで何を?」

「夜風に当たっておりました」

 欄干に掛けていた手を下ろし、体ごと彼に向ける。くいっと頬を引き締め、丁寧にカーテシーをしてみせた。

「初めまして。私は、エミリナ・スウォルトと申します」

「ああ、僕が誰だか気が付いたんですね」

 私の態度が変わったことで、目の前の男性はふふっと笑みを浮かべる。初めて見る薄紫の瞳は、月明かりに照らされて幻想的に輝いていた。

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