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第2話「誘導者」


「やぁ、よく来たな」


「ど、どうも……」


 ギルドにいくつもある部屋の中でも、よく王国からやって来る人が使うだろう厳かな部屋に『アドバイザー』と呼ばれる人物は堂々と座っていた。

 綺麗になめされた革の椅子に座れば、沈み込んでしまいそうなほどの浮遊感と快適さに意識が削がれてしまいそうになる。


「そう緊張するようなことでもない。儂にとっては、いつも通りにしてもらった方が話しやすいからの。敬語も必要ない。使いたければ使えばいい。そのくらいでいい。冒険者はそれほど豪胆なほうが長生きするからの」


 目の前の人物――『アドバイザー』というからにはピシッとした正装なのかと思ったが、寂れたローブに身を包んだ老人であった。真っ白な髪は無造作に伸ばしたまま。髭だってもじゃもじゃな状態。

 とてもギルドから派遣されたような人物に見えないどころか、豪華な部屋をあてがわれるような権威なんてないように見える――が、それはあくまでも表面上の話で、彼の双眸が俺の全てを見透かしているかのように、捉えて、離さなかった。

 彼の言う豪胆な冒険者は長生きするというのは、こういった狂気や恐怖を感じるような視線を受けていて動じない精神力の持ち主のことを言うのだろう。

 やはり、この老人はギルドから派遣されるだけの人間なのだ。


「さてさて、まずは儂の自己紹介をさせてもらおう。

 ティス・オビッカ。ギルド公認の『アドバイザー』をさせてもらっておる」


「……その、『アドバイザー』というのはどういったものですか」


 敬語を使わなくていいと言われたのだが、使わなければいけない。そんな圧力さえ感じてしまうほど、この老人は底知れぬナニカがある。

 その正体がなにかは全く検討もつかないが。

 俺の質問を何度も、何十回と受けてきたのだろう。さも当然のように、上に投げた物が落ちてくるのと一緒で、老人――ティスは微笑しながら答える。


「ギルドから認められた一部の『鑑定士』に付けられる称号のようなものじゃな。迷える現役冒険者に役立つ情報やスキルの活かし方を授ける。そんな老いぼれのお節介のようなものじゃよ」


 カッカッカッと、軽快に笑うその姿は、老いぼれなんて嘘だろと疑ってしまうほどに潤っていた。

 つまり、この人は『鑑定士』なのだ。

 スキルを判別したり、武器に付属(エンチャント)された属性や効果を明らかにするようなそんな万能スキルの持ち主なのだ。自分のような『債務者』とは雲泥の差がある。


「さ、質問を受け付けるのはここまでにしておこう。儂がどういった人間なのか。本当に『鑑定士』なのか。なぜ、ギルド公認なのかはデッド・ロベットへの有意義な時間で証明されるだろうしな」


「……」


 俺の名前が知られていることはある程度予測はできていた。しかし、彼の俺を捉えて逃がさない白色の双眸は恐ろしいほどに、秘密を握られているかのような威圧感さえあった。

 だが、ここに来た以上――前のパーティーに追放され、落ち込んだ俺であっても、縋れるものがあるならなんでもいい。むしろ、ティスの言うことは手放しで信頼できるような不思議な感覚さえあった。


「単刀直入に、デッド・ロベットよ。お主は『債務者』そのものを勘違いしておる」


「……え」


 そして、言い放たれたのは衝撃的かつ衝動的な一言。

 今までの意識を覆し、新しく再構築するような、魔法のような一言。


「お主の持つ『債務者』は言ってしまえば『債務者(かえさぬもの)』。相手のスキルを盗んだり、相手の持つ武器を奪ったりするだけじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなタンクにとって必須となる味方を庇うスキルなんじゃよ」


 

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