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第1話「追放者」


「デッド……。お前のせいでうちのパーティーは資金のやりくりさえできなくなったんだ。頼む。このパーティーから出て行ってくれないか……」


 久しぶりの依頼が成功した祝賀会にて、リーダーから言われたのは今でさえも思い出せるほどに衝撃的で、これから再び順風な軌道に乗れると楽観視していた俺を地の底へ落とすのは容易であった。


「……は? いきなりなんだよ」


「……知ってるだろ。俺たちのパーティーが散々依頼に失敗してきたのは」


「……まぁ、今日が久しぶりの成功だったものな」


 今まで自分達のパーティーランクに見合っていない依頼ばかり受けていたからこそ、失敗続きであった。

 しかし、それが理由だとするなら――依頼が成功しないからこそ成功報酬が無いからこそ俺を追い出すというのは、リーダーの采配や指揮が未熟だからと言いたくはあった。ただ、それを突きつけたところで反感を買ってしまうのは目に見えていた。

 その場にいたパーティーメンバー全員が、冷ややかな目で俺を見ていたからだ。


「お前が……お前なんかが『債務者』なんていうスキルを持っているせいで貧乏になっているとしか思えないんだ」


「いや……うん……」


「それにお前、全然戦闘の役にも立たないし、回復薬を使いまくっているせいで報酬を貰ったとしても差し引きで僅かなプラスにしかならないしな」


 パーティーでタンク役を務めている屈強な男がそう乗りかかる。


「いや、それは俺が斥候役なだけで――」


「斥候て、ただ前に出て傷ついているだけじゃない」


 ヒーラー役の女まで口に火をつけてしまう。修道院から出たはずなのに、神聖さを感じない言葉。なんと残酷だろうか。


「そういうことなんだ。頼む。出て行ってくれないか」


 リーダーはお願いしているはずが、出て行くことが確実な時点で、俺の居場所は無くなっていた。

 そうして、デッド・ロベットは天涯孤独。

 浮浪者となった。



 ▼





 パーティーから追放されて数日。あまりの消失感と喪失感にやる気が皆無となった俺は、街を彷徨くわけでもなくギルドに入り浸るわけでもなく、酒に溺れることもなく。


「どうするって、新しいパーティーを探す他ないんじゃない?」


 幼馴染の家で愚痴っていた。

 紅茶の置かれたテーブルに突っ伏して、窓の外に見える人々の流れを視界に収め、無気力に呟くだけ。ただただ、丁寧に煮出しされた穏やかな香りが癒しであった。


「それができたら苦労しないって……」


 向かいに座ってクッキーを齧る幼馴染――パピル・オビッカ。金色の髪を首元までさっぱりと切りながら、活発な印象を与える外ハネ。いかにも町娘。いかにも明朗快活な少女は、両親が切り盛りしている花屋の一人娘である。


「はぁ、なんだよ『債務者』て……借金とかしたことなんてないし、ギルドの『鑑定士』も斥候向きのスキルだとか太鼓判を押してたはずなのにな……」


「……斥候が、なにかは分からないけど人には得手不得手があるんだから、仕方ないと割り切るしかないんじゃない」


 言いたいこと、思ったことはズバズバと切り伏せるパピル。そのせいで俺の精神はズタボロなのを見せつけた方が少しは優しくしてくれるのかもしれないが、追放されて収入源の無くなった俺を居候の身として置いてくれている以上、これ以上甘えるのは筋違いだと言い聞かせる。


「ほら、なんだっけギルドから手紙来てるんだし、一度行ってみたら? なにか変わることがあるかもしれないよ」


 そう取り繕った笑顔でもなく、純真無垢な笑みを浮かべながら手紙を差し出すパピル。落ち込んでいる俺が、いつまでも不貞腐れたままでないことを信じている。そんな確信にも似たものを。無条件に差し出してくるのだ。

 その厚意を無駄にするのは、本人だけじゃない。パピルの両親にでさえ顔向けできない。それこそ、自分の居場所が本当に無くなってしまう。

 ゆえに、俺は手紙を受け取るとそこに書かれている一文に目を疑った。


 【デッド・ロベットへ。

  ギルド公認『アドバイザー』の指示を受け、冒険者として復帰しなければ冒険者登録を抹消する】


 ……誰だよ『アドバイザー』て。

 しかし、その『アドバイザー』との出会いが無ければ、俺は本当に天涯孤独だったのかもしれない。

 幼馴染からも見放され、温情や恩義を借りたまま逃げ続ける債務者だったのかもしれない。

 そう思ってしまうほどに、俺の人生は一変することとなる。

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